雇用とは?法律上の定義や雇用形態の種類、必要な対応の流れをわかりやすく解説
企業活動において欠かせない「雇用」。
雇用にはさまざまな形態が存在し、雇用形態によって必要な手続きや保障も異なります。
この記事では、そもそも雇用とは何か、その法律上の定義や、雇用形態の種類、雇用契約の締結時に必要な対応の流れについて解説します。
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目次[非表示]
- 1.雇用とは
- 1.1.雇用の定義
- 1.2.業務委託・委任契約・請負との違いは?
- 1.2.1.業務委託契約
- 1.2.2.委任契約・準委任契約
- 1.2.3.請負契約
- 2.雇用形態の種類
- 3.雇用契約の成立要件とは
- 3.1.雇用契約時に必要な書類
- 3.2.雇用契約締結の対応の流れ
- 3.2.1.必要な書類の提出・回収
- 3.2.2.保険や税金に関しての手続き
- 3.2.3.法定三帳簿の準備
- 4.雇用契約締結前に行うべき反社チェックとは
- 4.1.反社チェックの導入が増加する背景
- 4.2.反社チェックの方法
- 5.まとめ
雇用とは
雇用とは、事業主が人材を採用してから、配置、育成、処遇などを行い、退職に至るまでの一連の管理プロセスのことです。
事業主は労働者に対して、法に基づいて最低賃金以上の賃金を支払い、健康診断を行うことが義務付けられています。
雇用の定義
雇用する際、雇用主と労働者の間で「雇用契約」を締結します。
民法第623条では、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えると約束して、その効力を生ずる」と定められており、双方の同意があれば口頭でも成立します。
しかし、労働基準法第15条では「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と規定されており、雇用契約締結の際には書面での契約が必要となります。
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業務委託・委任契約・請負との違いは?
雇用契約と異なる契約形態として、業務委託契約があります。
また、業務委託契約は委任・準委任契約と請負契約に分類されます。
それぞれ詳しく解説します。
業務委託契約
業務委託契約とは、自社では対応ができない業務を、他社やフリーランスなどの個人といった外部に任せる契約のことです。
雇用契約とは違い、「使用者」と「労働者」のような主従関係は発生しません。
委任契約・準委任契約
委任契約は、業務の遂行を目的とした契約です。
例として弁護士への依頼など、主に法律行為を委託する際に交わされます。
民法では以下のように条文化されています。
第643条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
引用:民法
業務を行ったという事実に対して報酬が支払われる仕組みで、業務の質や達成度に関わらず支払いが発生します。
委任契約の場合、受託者は善管注意義務を負います。
第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
引用:民法
準委任契約は、法律行為以外の業務の遂行に対して交わされる契約です。
主に、システム開発などを行うITエンジニアなどで見られる契約形態です。
請負契約
請負契約は、成果物の完成を目的とした契約です。
つまり、受託者には「依頼された仕事を完成させる」という義務が生じ、成果物が完成することを条件に報酬が支払われる仕組みです。
完成までの工程や作業の方法は問われませんが、成果物が委託者の意に沿っていない場合、修正が求められることや、欠陥がある場合は報酬が得られないこともあります。
主に、ライターやWEBデザイナー、配送ドライバーなどで導入されている契約形態です。
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雇用形態の種類
雇用形態にはさまざまな種類があります。
主な雇用形態は以下の6つです。
- 正規雇用
- 非正規雇用
- 直接雇用
- 間接雇用
- ジョブ型雇用
- メンバーシップ型雇用
それぞれ詳しく解説します。
正規雇用
正規雇用は、一般的に「正社員」と呼ばれている雇用形態のことです。
原則、雇用期間の定めがなく、雇用保険・社会保険に加入させる義務があります。
正規雇用は、フルタイム社員と短時間社員の2種類があります。
フルタイム正社員
フルタイム正社員は、企業が定める就業規則の所定労働時間の上限まで働く社員のことです。
会社の中心として勤務し、管理業務なども行うほか、昇進や役職が与えられることがあります。
短時間正社員
短時間正社員は、フルタイム正社員と違い、所定労働時間が短い雇用形態で働く社員のことです。
雇用期間の定めがなく、基本給や退職金の算定方法などの点においては、基本的にフルタイム正社員と同様です。
何らかの事情がありフルタイムで働けないという人を雇用する際には、短時間正社員として採用することで柔軟な対応が可能になります。
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非正規雇用
非正規雇用は、雇用期間の定めがある雇用形態のことです。
一定期間の雇用形態で働くことを前提とした雇用で、長期雇用は保障されません。
労働時間はフルタイム正社員と同等のケースもあれば、短いケースもありますが、給与や福利厚生面は正規雇用と比較すると充実していないケースがほとんどです。
非正規雇用には、派遣労働者、契約社員・嘱託社員、パートタイム労働者の3種類があります。
派遣労働者
派遣労働者は、雇用主と就業先が異なります。
人材派遣業者や労働者派遣業と契約をして、別の派遣先企業で働く形態で、報酬は派遣元の事業主から支払います。
派遣労働には以下の2種類があります。
- 登録型派遣:派遣先があるときにだけ、派遣業者と雇用関係が生じる
- 常陽型派遣:派遣先の有無に関わらず、派遣業者と雇用契約が結ばれている
トラブルなどが発生した場合は、原則、派遣元業者が責任をもって対処する必要がありますが、派遣先企業も全く責任を負わなくてよいわけではありません。
派遣労働は複雑な形態であるため、「労働者派遣法」によって細かくルールが明文化されています。
参考:労働者派遣事業の適切な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
契約社員・嘱託社員
契約社員は、期間の定めがある有期雇用契約を結び、契約内容に従って業務を行う社員のことです。
契約社員の雇用期間は、例外を除いて最長3年と定められています。
似たような意味で使われる用語である嘱託(しょくたく)社員は、突出した技術をもつ人材や、退職後の社員を雇用する際の雇用形態ですが、法的な定めはありません。
一般的に、契約社員はフルタイムで、嘱託社員は短時間勤務や非常勤が多いという傾向があります。
パートタイム労働者
パートタイム労働者は、フルタイム正社員よりも短い時間、少ない日数で働く人のことです。
パートやアルバイトなど様々な呼び方をしますが、パートタイム労働法の条件に一致すれば、一律にパートタイム労働者とされ、法律上の区別はありません。
使用者は、労働条件などに加えて、昇給や退職手当、賞与の有無などを書面に明示することが義務付けられています。
また公正な待遇の確保や、正社員への雇用形態の変更に取り組むことも義務付けられているため、注意が必要です。
関連記事:IPO準備企業が整備すべき人事・労務とは 懸念点についても解説
直接雇用
直接雇用は、働く企業と直接雇用契約を締結することで、正規社員、契約社員・嘱託社員、パートタイム労働者などが当てはまります。
また、派遣労働者の場合でも、1年以上派遣契約を続けている場合、労働者の希望があれば直接雇用する必要があります。
間接雇用
間接雇用は、請負会社や人材派遣会社が間に入って、企業と労働者が間接的に契約することです。
企業側は、労務管理や福利厚生の負担がないことがメリットです。
ジョブ型雇用
ジョブ型雇用は、仕事内容や勤務地を提示したうえで人材を採用し、仕事の成果によって報酬を決定する雇用制度のことです。
欧米では一般的な雇用制度で、年齢や学歴は関係なく、スキルを重視して雇用します。
日本でも浸透しつつありますが、2020年4月に「同一労働同一賃金」が施行されたことで、さらに注目度が上がりました。
メンバーシップ雇用
メンバーシップ雇用とは、新卒を一括で採用し育成していく雇用制度のことで、「日本型雇用」とも呼ばれています。
業務内容や勤務地を限定せずに雇用契約を締結し、基本的に終身雇用を前提として、企業の社風に適した人材を、時間をかけて育成します。
年功序列で昇進が決められるシステムや、企業別に労働組合を保有していることが大きな特徴です。
関連記事:バックグラウンドチェックはどこまで調査が必要なのか?採用ターゲット層に合わせた調査とは
雇用契約の成立要件とは
どういったステップで、どういう書類を交付すれば雇用契約の締結となるのかを解説します。
雇用契約時に必要な書類
雇用主が労働者を雇用する際は、「労働条件の明示」が義務付けられています。
参考:労働基準法第15条
雇用主側の企業は「雇用契約書」もしくは「労働条件通知書」などの書類を作成する必要があります。
雇用契約書
雇用契約書とは、就業時間・場所、賃金に関する事項、具体的な職務内容、休暇内容など労働条件が記載された書類です。
雇用主と労働者の双方が内容を確認したうえで署名・捺印を行い、契約内容に同意したことを表します。
雇用契約書は法律上の作成義務はなく、「労働条件通知書」で通知を行っていれば、法律違反にはなりません。
ただし、労働条件通知書はあくまでも「労働条件の明示」が行われる書類のため、双方が内容を確認し同意したという証明にはなりません。
トラブルの発生に備えて、リスク対策の一環として雇用契約書を作成しておくとよいでしょう。
労働条件通知書
労働条件通知書は、労働基準法第15条で義務とされている「労働条件の明示」を達成するために作成される書類です。
労働条件通知書の記載事項には、必ず記載する必要がある「絶対的記載事項」と、企業ごとに該当の制度がある場合に記載する必要がある「相対的記載事項」の2つの項目があります。
絶対的記載事項は以下の項目です。
- 労働契約期間
- 終業する場所
- 具体的な業務内容
- 始業・終業時間
- 交代制に関してのルール
- 所定労働時間を超過する労働の有無(残業の有無)
- 休日・休暇について
- 休憩時間
- 賃金に関する事項(締切日・支払い日・支払い方法など)
- 退職・解雇関連の規定
- 担当部署名・担当者名
さらに、パート・アルバイトなどの労働者に対しては以下の項目も記載が必要です。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
相対的記載事項は、退職手当の適用される範囲や計算方法、支給の時期、職業訓練の有無、業務外の傷病扶助など、自社が該当する制度を設置している場合は記載する必要があります。
労働条件通知書は、厚生労働省のサイト上でテンプレートが公開されており、誰でもダウンロードすることができます。
雇用契約締結の対応の流れ
雇用主側は雇用契約締結時にどのような手順を踏んで対応するのか、3つの手順に分けて解説します。
必要な書類の提出・回収
労働条件通知書を交付した後、労働者から必要な書類を回収する必要があります。
入社手続き時には多くの書類が必要となるため、漏れのないよう注意が必要です。
主な書類は以下の一覧です。
- 源泉徴収票(中途採用の場合)
- 雇用契約書(署名捺印済み)
- 健康診断書
- 資格の合格証明書
- 運転免許証のコピー
- マイナンバーカード
関連記事:IPO準備企業が転職者を中途採用する際に気を付けるべきこと
保険や税金に関しての手続き
必要な書類を回収したら、次に保険や税金関連の手続きを実施します。
主に雇用保険や社会保険、住民税や所得税の手続きが発生します。
保険関連は、採用者が正社員かつ70歳未満であれば、年金事務所か健康保険組合、または厚生年金基金に「健康保険/厚生年金被保険者資格取得届」を提出します。
雇用開始の日から5日以内の手続きが望ましいとされているため、契約締結後は迅速な対応が求められます。
また、非正規雇用の場合でも、条件によっては正規雇用と同様の手続きが必要です。
住民税・所得税は給与から天引きが可能なため、手続きが必要ないケースが多いです。
ただし、転職した年に再就職をした従業員は、前職の給与所得についての源泉徴収票の提出が必要となります。
もしも所得税や住民税の扱いが不透明な場合、税理士などの専門家に相談するのが良いでしょう。
法定三帳簿の準備
法定三帳簿とは、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の3つの書類のことで、企業が作成し保管することが義務付けられています。
これらの書類はそれぞれ法律で保存期間が設定されています。
関連記事:反社会的勢力排除条項(暴力団排除条項)とは?契約書に定めるべき理由と条項について解説
雇用契約締結前に行うべき反社チェックとは
雇用契約を締結する前、厳密には内定を出す前に必ず反社チェックを行う必要があります。
反社チェックは、チェック対象者が反社会的勢力ではないかを調査することで、採用候補者のほか、取引先や株主に対しても実施します。
反社会的勢力に関連する人物を雇ってしまうと、コンプライアンス違反になるだけでなく、不当要求が行われたり、脅迫などによって従業員が危険な目に遭ったりする可能性があります。
一度雇用契約を結んでしまうと、解雇するには相当な理由が必要になります。
必ず事前に反社チェックを行い、危険な人物を見極めることが重要です。
関連記事:企業を守る反社チェックとは 知っておくべき概要と具体的なやり方
反社チェックの導入が増加する背景
反社チェックが導入されるきっかけとなったのは、2007年に政府指針が発表し、各都道府県に暴排条例が出されたことです。
これにより世の中において反社会的勢力排除の動きが強まりました。
それに伴い、企業には反社チェックを実施する努力義務が課されました。
その結果、反社会的勢力は巧妙に世間に溶け込むようになりました。
闇バイトなどの問題が広まり、新社会人が反社会的勢力と関係をもっているケースも増加しています。
若いからと言って安心してよいものではありません。
こういった背景から、企業は反社会的勢力を排除するため、反社チェックが必須となっています。
反社チェックの方法
反社チェックの方法は、公知情報の検索や反社チェックツールを導入して自社で調査を行う方法と、専門の調査期間に調査を依頼する方法という大きく分けて2つの方法があります。
実施方法によって、調査にかかる費用や時間、チェックの精度も変わってくるため、会社の規模やリスク状況に合わせてやり方を選ぶとよいでしょう。
関連記事:反社チェックを行うタイミングとは?チェック方法も解説
まとめ
この記事では雇用の定義や雇用形態の種類、雇用契約締結の流れを解説しました。
雇用形態によって様々な法律が存在し、必要な手続きの内容、書類の記載事項にも違いがあります。
雇用は企業活動を行ううえで欠かせないものですので、正しく理解し、適切な対応を行いましょう。
また、雇用契約を締結する前には必ず反社チェックを実施することが大切です。
関連記事:個人情報保護法に基づくバックグラウンドチェックの必要性と合法性について
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