IPO準備&急成長ベンチャー必見!取引先が増えきる前にやるべき「反社チェック」
2022年3月16日(水)に行われた(株)LegalForceとソーシャルワイヤー(株)の共催セミナーの
目玉企画であった「【対談】IPO準備中・急成長中に企業がぶつかる壁 事例と対策」の後半では、(株)LegalForceの代表取締役社長角田望氏と、弊社代表取締役社長の庄子素史氏による「反社チェックの重要性」について語られました。
弁護士でありながら社長でもある角田氏からは専門的な見地からお答えいただいたベンチャー企業が行うべき反社チェックについて、セミナーに参加できなかった方にも、余すところなくお伝えしたいと思います。
【参考】より深く知るための『オススメ』コラム
👉IPO準備時に必要な社内規程(社内規定)の整備とは 作成の注意点を具体的に解説
👉IPO準備にはなぜ反社チェック(コンプライアンスチェック)が必要なのか?上場基準の反社会的勢力排除の体制づくりについて解説
チェックリストでわかる!反社チェックの体制・運用点検リスト
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IPO準備中・急成長中企業 反社チェックのあるべき姿とは?
ソーシャルワイヤー(株)庄子素史氏(以下、庄子):反社チェックは法務・総務・人事・営業と多岐にわたり関連しています。また、IPOにあたり内部統制の中で審査される部分でもあります。
東証の審査部の方たちに以前話を聞いた際、「これをやってるから絶対大丈夫。とか、このツールを使ってるから審査が通る。とか、そういう魔法のツールはないです。ツールはなにを使うのかが大事なのではなくて、その会社ごとの固有のリスク、例えば不動産や飲食業など、それぞれ会社ごとの固有のリスクがあるはずです。また、リスクが起きやすいポイントがあるはずです。それをきちんとつぶしているかどうか、そういった観点でリスク管理をしっかりやっているか、自分の会社はこういうリスクがあるから自分たちはこうやってリスクヘッジしています。と経営者がきちんとリスクマネジメントについて話ができて、それに対して必要最低限の体制であったり、生産性を上げるためにツールを使うなどそういったものが整っていればいいんじゃないですか。」とお話いただきました。
ソーシャルワイヤーが上場前に直面した反社チェックの課題とは
庄子:当社ではIPO準備時、最初は新聞データベースである「日経テレコン」のみを使っていました。日経テレコンさんが持っているデータだけでチェックをしていたということです。例えば、従業員の採用時もそうですし、M&Aするときに相手先の会社の方、相手先の株主の方、こういった方たちにもM&Aすると利益供与することになるので、そこに反社の方がいないかどうかをチェックしていました。もちろん、取引するときの取引先の社長や役員の方々に対しても反社チェックを行っていました。その際は会社名と人物名で検索していました。
しかし、証券会社の担当者から「反社チェックを1つのデータソースだけで画一的に行っていると漏れが出る恐れがあるので、できればもう1つ違うデータソースで反社チェックをしたほうがいい」といご指摘いただきました。それから当社では日経テレコンで新聞のデータベースの検索をしつつ、Google検索を行うようにしました。30個ぐらいのネガティブワードをAND条件でばーっとつなげて。20ページくらいをGoogleで見て、該当ページがないな。となったら違う人の名前を入れて…こういうことをひたすらやっていました。
これをIPOのギリギリでやらなきゃいけない、過去の分もやれってことになって、営業現場も開発現場も皆で「1日1000件反社チェックして」とノルマを課してやってた時期がありました。その時は開発も営業もストップしてしまって。でもベンチャーにとって一番大事なIPOって実際には通過点で、成長していくためのIPOなのに、その成長するための期間をこういう内部統制の反社チェックに取られてしまって成長が止まってしまったのは大きな課題だと思いました。
「絶対に反社ではないという証明は難しい」
庄子:色んなステークホルダーを反社チェックしなければならなくて、1番厄介だったのは「魔女裁判」というか、「その人が本当に白だったかどうか」を証明しなければならない。魔女裁判は魔女でないことを証明してくださいというやつで「悪魔の証明」と呼ばれています。その人が犯罪を起こさなかったとしてもその人がこの件に関与しなかったことを証明しなさいと言われたりすることもあります。
※ステークホルダー…株主・経営者・従業員・顧客・取引先のほか、金融機関、行政機関、各種団体など、企業のあらゆる利害関係者のこと。
東証さんとやり取りしていると、おそらく上場する前に取締役会と監査役会を作らされるので、その際に社外取締役を過半数ぐらいいれたりすると思います。しかし、もしその方が過去になにか問題を、例えば粉飾とかやっていた会社のグループ会社の役員をやっていたとします。
そうすると「その方がこの会社の粉飾に関わってなかったことを証明してください。できないのであれば、その人がいる間はIPOの審査が延期されます。」実はこの「延期」というのは事実上、東証としては「No」という判断であります。こういったケース容易に想定できるので、できるだけ早い段階から反社チェックを行うことでこういった状態を回避することができます。
話は少しずれますが、実は反社は暴力団とかだけでなく、その会社によってどういったものを反社と指定するか。は違うということです。例えば、経済事件に関与してる。とか、軽犯罪を犯した方でも会社としては取引してはいけないと規定している会社もあるのが実情です。
事例をお話しますと、自宅にベビーシッターを呼ぶサービスをしている会社が利用者に対して、過去に子供への軽犯罪を犯してしまった方を知らずにベビーシッターとして送り込んでしまい、結局その方が同じような事件を起こしてしまったことがここ数年でありました。こういった事件の当事者は反社かというと、反社ではないかもしれないが、その会社の固有のリスクから見るとその人は反社と同じくらい雇用してはいけない人(=リスクある取引)だったということ。反社チェックの範囲は固有のリスクに関連する人物についても行うことが大事です。
急成長企業(株)LegalForceの社長が考える反社チェックの重要性とは?
庄子:弊社ではその反省を生かして新聞データベースとネット検索が1つのツールで行えるRISKEYESを使って効率よくしているが、急成長中のLegalForceさんも反社チェックするようになったと聞きました。反社チェックをするようになったきっかけを教えてください。
(株)LegalForce角田望氏(以下、角田):IPOを目指していく会社として「どこかのプロセスで反社チェックをいれないといけないな」っていうのは創業期から思っていました。どのタイミングでいれるのかというのは悩みましたが、事業規模が大きくなっていくことが見込まれる中で「取引先が増えきる前に」ある程度仕組み化しないと、いざIPOのプロセスに入るときに膨大な数の取引先をそのタイミングから反社チェックしなければならない。となるのは、さすがに厳しいだろうということで、取引先がそこまで多くないタイミングから体制作りの取り組みを始めました。
同時に法務部門や財務部門の体制を強化してきていて、その中で反社チェックをある程度回せる部門規模になってきたというのもあります。取引先が増えきる前に且つ、管理部門がそのキャパシティを持ったタイミングで仕組み化し、そこでまとめて過去分の反社チェックを一気に行って、そのうえで今後の体制も整えました。なので新規取引については今回作った体制で回していきます。
「過去から疑いが判明した時点で手遅れ」
庄子:「弁護士」としてみたときに反社案件の怖さ、どういう風に取り組んでいたかについて教えてください。
角田:反社っていうのはなにかっていうと、一義的には暴力団等なんです。上場会社とかでは経済犯罪を犯した人物等も含まれるので広くなるんですけど。暴力団等に資金を流すっていうのは社会的存在である企業には基本的に許されないっていうのが大前提としてあります。意図せずでも資金を流してしまうと「反社会的勢力に汲み入ってる」と、「存在を支えている」と社会的に許されないのです。
都道府県の暴排条例とかでも企業は契約を結ぶ際に「反社会的勢力と判明した場合に取引を解除する条項」を記載することを努力義務として規定されています。ただ、一度取引関係を持ってしまうと解消するのが容易でないです。多くの企業では取引先と結ぶ契約書に必ず反社排除条項を入れるんですね。反社だと判明した場合には契約を解除しますと。解除したとしてもその責任を負わなくてもよいと。
でも、いざ判明したときに何が起こるかというと反社会的勢力であるかどうかの認定・立証が非常に難しいのです。契約条項を発動させられるかどうか、その会社が反社会的勢力だということを証拠に基づいて立証できるか。その証拠を持って取引を解除するってのがとても難しい。したがって取引先が反社の疑いがあるというのに直面した場合、「反社の疑いがあるんだけど反社かどうかわからない」つまり、取引解消ができないんですね。
不確かな事実関係のまま、契約を解除してしまうと取引先が「反社じゃないよ」と言って損害賠償請求とか起こしてくる可能性があります。例えば、犯罪を犯しただけだと普通反社には当てはまらないですよね。定義上は。そうすると契約書に入っている反社排除条項では解除できないんです。そうすると法的に契約の解除ができないので、「違法行為を行っている」というのを理由に解除することはできるかもしれません。ただ過去に不法行為をしていたことを解除事由にしてある契約書はほとんどないので、過去から疑いが判明した段階で排除できません。
「取引に入る前に疑わしきものは排除する」
角田:契約を解除したとしても大きなトラブルになってしまう恐れもあります。元々反社の疑いがある企業や人物なので闘ってくる可能性もあり、かなり大きなリスクに直面する恐れがあるので、本当は取引に入る前に疑わしきものは排除しておくことが大事です。一度契約関係に入ってしまうとそれを解消するのはかなり難しくなってしまうので。
庄子:おっしゃる通りです。「疑わしきものは取引しない」ってのは1番正解な気がしますね。そのためには取引の前に「ある程度チェックする」というのを癖づけたほうがいいなと感じました。
上場したときは訴訟のリスクを常に開示・説明責任が伴ってくるので、そういうところってIPO後にも非常にリスクは大きいだろうなと思います。うちの会社は訴訟リスクを抱えたことはないですが、業者によっては訴訟リスクになりそうな取引をやっているところもあると思うので非常に重要なポイントだと思いました。
「受注に対するリードタイムが伸びないようにするのが大事」
庄子:最後に反社チェックでこういうところが難しいとか工夫してるってところがあれば教えてほしいほしいです。
角田:過去蓄積してきたものをいかに効率的且つ、平常業務に支障をきたさない形で対処するかってところがメインです。その過程で「RISK EYES」さんのサービスを使っています。あとは、その後の運用フローの中でなるべくプロセスを軽くしたいってのはあります。例えば、私たちのサービスは弁護士さん個人と契約をしたりするが、個人の反社チェックはどうするのか、そこのプロセスをなるべく軽くして受注に対するリードタイムが伸びないようにするのが大事かなと思います。
関連記事:IPO準備にはなぜ反社チェック(コンプライアンスチェック)が必要なのか?上場基準の反社会的勢力排除の体制づくりについて解説
まとめ
弁護士でもある角田氏の反社チェックに対する考え方はいかがでしたでしょうか?
取引先が増えきる前に仕組み化することの大事さについてなど、早速現場に活用できる内容もあったのではないでしょうか。
取引に入る前に疑わしい企業や人物をはじくことができれば、事前にリスクを排除できたことになります。
あくまでも取引先が反社と判明してしまった後のために反社チェックを行うのではなく、事前にリスクを回避するという考え方が、反社チェックを行う上で根幹的な考えになりますので、是非、意識していただくことで、自社のリスク管理に活かしていただければ嬉しいです。
関連記事:コンプライアンス違反の罰則とは 起こさないための対策と事例を詳しく解説
関連記事:上場企業・IPO準備企業の陰に潜む反市場勢力とは?基本と用語について解説
共催セミナー協力企業のご紹介
今回のセミナー「急成長中の落とし穴!IPO成功の鍵 契約管理×反社チェック~上場企業×急成長企業の役員対談~」にて共催させていただきました(株)LegalForceから登壇者と取り扱いサービスをご紹介いたします。
登壇者紹介
株式会社LegalForce
代表取締役社長 角田 望(つのだのぞむ)氏
2010年京都大学法学部卒業、同年、旧司法試験合格、2012年弁護士登録。2013年森・濱田松本法律事務所入所、M&Aや企業間紛争解決に従事。2017年独立、法律事務所ZeLo・外国法共同事業開設及び株式会社LegalForceを設立し、現職。