雇用に関連する法律と主なルール 違反した場合のリスクと罰則も解説
労働三法をはじめとして、人事・労務担当者の業務に関連する法律は多数存在します。
高度経済成長期からバブル崩壊を経て、日本の雇用は変化し、それに伴って法律も改正されています。
日本の労働法制の適用を受ける事業者は、立法によって追加される新たな法的義務や社会規範を遵守する必要があります。
この記事では、雇用に関連する法律とルール、それらに違反した場合のリスクと罰則について解説します。
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目次[非表示]
- 1.雇用・労働関連の基本法と主なルール
- 1.1.労働基準法
- 1.1.1.労働条件の明示に関するルール
- 1.1.2.解雇の予告に関するルール
- 1.1.3.賃金支払いの5原則
- 1.1.4.労働時間・休憩・休日に関するルール
- 1.1.5.残業代に関するルール
- 1.1.6.有給休暇に関するルール
- 1.1.7.就業規則に関するルール
- 1.1.8.労働者への周知に関するルール
- 1.2.労働組合法
- 1.2.1.不当労働行為に関するルール
- 1.2.2.労働協約に関するルール
- 1.3.労働契約法
- 1.3.1.労働契約の原則に関するルール
- 1.3.2.内定期間中の権利義務関係に関するルール
- 1.3.3.試用期間に関するルール
- 1.3.4.懲戒権・解雇権の濫用に関するルール
- 1.3.5.有期労働契約の無期転換ルール
- 1.3.6.雇止め法理に関するルール
- 1.4.労働関係調整法
- 1.5.労働安全衛生法
- 2.雇用の安定に関する法令
- 2.1.最低賃金法
- 2.2.労働者派遣法
- 2.3.パートタイム・有期雇用労働法
- 2.4.職業安定法
- 3.高齢者・女性・障碍者雇用に関する法令
- 4.関係法令に違反した場合のリスクと雇用主への罰則
- 5.暴力団排除条例と雇用の際に行うべき反社チェック
- 6.まとめ
雇用・労働関連の基本法と主なルール
雇用や労働に関連する法律は多数ありますが、雇う側(使用者)と雇われる側(労働者)の関係性を規律する法令を総称して「労働法」と呼びます。
労働者は使用者に比べると立場が弱くなってしまう傾向があり、使用者から搾取される可能性があります。
労働法には、労働者を保護するためのさまざまな規則を定め、使用者と労働者間の力関係のバランスを保つ役割があります。
労働法の中でも「労働基準法」「労働組合法」「労働関係調整法」の3つは、労働三法と呼ばれています。
労働三法に加え、人事・労務に関する実務を行ううえで押さえておく必要があるのが労働安全衛生法です。
その他の関連法とともに、詳しく解説します。
関連記事:雇用形態とは?保険の適用範囲や管理のポイントを解説
労働基準法
労働基準法は労働条件に関する最低基準を定めた法律で、1947年に制定されました。
労働基準法第13条では、労働基準法の基準に達しない労働契約は無効となることが定められています。
労働基準法を遵守しているかどうかは、労働基準監督署が監督しており、違反した使用者には刑事罰が科されることがあります。
労働基準法は基本的に、労働者を雇い入れる事業者と、雇われる労働者の全てが対象となります。
一部対象外となるのは以下のケースです。
- 一部の船員(一部条件のみ、対象外のケースには船員法が適用される)
- 家族経営の事業で働く親族(同居親族の場合)
- 家事使用人
- 一部の公務員
労働基準法では、労働契約において生じる雇用者の義務と労働者の権利に関するさまざまなルールが定められています。
それぞれ詳しく解説します。
労働条件の明示に関するルール
使用者は労働契約を締結する際には、労働者に対して労働条件を明示しなければなりません。
明示の方法として労働条件通知書を交付する以外にも、雇用契約書に労働条件を記載して交付するケースもあります。
労働条件については、労働契約の期間や就業場所、賃金などの必ず明示しなければならない「絶対的記載事項」と、該当する制度がある場合のみ明示しなければならない「相対的記載事項」があります。
関連記事:雇用契約書は必要か?交付方法や内容、作成時のポイントについても解説
解雇の予告に関するルール
使用者が労働者を解雇する場合、30日以上前に予告しなければいけません。
予告期間を短縮する場合は、その日数分の平均賃金を「解雇予告手当」として支払う必要があります。
賃金支払いの5原則
賃金の支払いについて、以下の5つの原則が定められています。
- 通貨払いの原則:賃金は原則、日本円で支払わなければいけない
- 直接払いの原則:賃金は労働者に対して直接支払わなければいけない
- 全額払いの原則:賃金は原則、全額を労働者に支払わなければいけない
- 毎月払いの原則:賃金は毎月1回以上支払わなければいけない
- 一定期日払いの原則:賃金は一定の期日を定めて支払わなければならない
労働時間・休憩・休日に関するルール
過酷な長時間労働を無くし、労働者の健康を維持するために労働時間・休憩・休日に関してルールが定められています。
法定労働時間は原則として1日8時間以内、週40時間以内と設定されています。
休憩は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上与えなければいけません。
また休日については、週1日以上または4週間で4日以上与える必要があります。
労働時間と休日については、36協定を締結すれば例外が認められます。
関連記事:社内コンプライアンスを高める方法とは?対策や違反事例も解説
残業代に関するルール
時間外労働などが発生した際には、割増賃金を支払うことが義務付けられています。
割増賃金は以下の通りです。
- 時間外労働:法定労働時間を超える場合は、通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払う必要があります。また、月60時間以上を超える部分については50%以上の支払いが必要です。
- 休日労働:法定休日に行われる労働については、通常の賃金に対して35%以上の割増賃金を支払う必要があります。
- 深夜労働:午後10時から午前5時の労働については、通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
有給休暇に関するルール
雇用開始から6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続勤務年数に応じた日数の有給休暇が付与されます。
このルールは正社員だけでなく、パートタイム労働者など所定労働日数が少ない雇用形態の場合でも適用されます。
原則として労働者が自由に時期を決めて取得することができ、年10日以上の有給休暇が付与される労働者については、年5日以上の有給休暇を労働者に取得させることが使用者の義務です。
就業規則に関するルール
常時10人以上の労働者を使用する場合は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。
就業規則に記載する内容にも、賃金や休憩時間、休日などの絶対的記載事項と、相対的記載事項があります。
労働者への周知に関するルール
使用者は、以下の4つの事項を労働者に周知しなければなりません。
- 労働基準法および同法に基づく命令の要旨
- 終業規則
- 労使協定(36協定など)
- 労使委員会決議
周知の方法は、各作業場の見やすい場所へ常時掲示・備え付ける方法のほか、書面を労働者に交付する方法や、磁気テープや磁気ディスクなどに記録し、各作業場に確認用の機器を設置する方法もあります。
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労働組合法
労働組合法は、日本国憲法で定められている「団体権」「団体交渉権」「団体行動権」の労働三権を具体的に保証するための法律です。
労働組合法において重要な規制は、「不当労働行為」と「労働協約」に関するルールです。
以下で、詳しく解説します。
不当労働行為に関するルール
不当労働行為とは、労働者の団体行動を不当に妨げるとして禁止されている使用者の行為です。
具体的には以下の行為が該当します。
- 労働組合員であることや、労働組合の結成・加入、正当な組合活動を理由に、労働者に対して不利益な取り扱いをすること
- 労働組合への不加入や脱退を雇用条件とすること
- 労働組合との団体交渉を正当な理由なく拒むこと
- 労働組合の運営や結成を支配したり、介入したりすること
- 労働組合の運営経費の支払いにつき、経理上の援助を与えること
- 労働委員会に申し立てたことを理由に、労働者に対して不利益な取り扱いをすること
労働協約に関するルール
労働協約とは、使用者と労働組合の間で締結される契約のことです。
労働契約は使用者と労働者の間で締結されるため、契約を結ぶ相手が異なります。
労働組合法では、労働協約が労働契約に優先することなどが定められています。
関連記事:バックグラウンドチェックで休職歴は確認できる?発覚した場合の対応についても解説
労働契約法
労働契約法は、使用者と労働者の間で締結される労働契約に関するルールを定めた法律で、2008年から施行されました。
契約締結の際のルールや契約内容の変更手続き、契約終了時の手続きなどについて規定されています。
主なルールを解説します。
労働契約の原則に関するルール
労働契約に関する原則として、以下の4つを定めています。
- 合意原則
- 均衡考慮の原則
- 仕事と生活の調和の原則
- 信義誠実の原則・権利濫用の禁止
簡潔にまとめると、「契約を締結・変更する際は労働者と使用者が対等な立場における合意に基づき、その待遇は、就業実態に応じてバランスの取れた内容にしましょう。
また、仕事と生活の調和にも配慮しつつ、労働契約を遵守し、双方が信義に従って誠実に権利を行使、義務を履行しましょう」という4原則です。
内定期間中の権利義務関係に関するルール
労働契約開始前に出す「内定」については、法律上の定めはないですが、判例法理によってルールが設けられています。
内定は判例上、「始期付解約権留保付労働契約」であるとされています。
つまり、内定を出した時点で労働契約が成立しているということになり、契約に基づく権利義務は一部発生します。
内定の取り消しには、社会的通念上相当と認められる事由が必要です。
関連記事:バックグラウンドチェック後に内定取り消しはできるか?様々なケースごとに解説
試用期間に関するルール
試用期間は一般的には2.3カ月、長くて半年程度とされることが多いです。
試用期間について法律上の明確なルールはありません。
しかし、試用期間を設定する場合は、労働者に対して条件などを明示する必要があります。
懲戒権・解雇権の濫用に関するルール
不当解雇を制限するためのルールで、使用者が懲戒処分や解雇を行う際は、客観的に合理的な理由を欠き、社会念上相当と認められないケースの権利濫用を無効とします。
有期労働契約の無期転換ルール
派遣社員など、期間に定めのある有期労働契約を結ぶ際、労働者の地位を安定させるために定められたルールです。
同一使用者との間で契約が更新されて通年5年を超えた場合は、労働者の申し込みによって、無期労働契約に転換することが可能になります。
雇止め法理に関するルール
一定の条件を満たした際に、使用者側の雇止めを無効にするルールです。
関連記事:トライアル雇用とは?雇用の流れやメリット・デメリットを解説
労働関係調整法
労働関係調整法は、主にストライキなどの労働争議の予防・解決を目的とした法律で、1946年に制定されました。
労働争議が起きた際に、労働委員会から派遣された斡旋員が労使間に入り双方の主張の要点を確かめる「斡旋」、調停委員会が双方の意見を聞き調停案を作成・受理を勧告する「調停」、仲裁委員会が双方の意見を聞き、仲裁裁定を書面で定める「仲裁」の3つの方法が定められています。
労働安全衛生法
高度経済成長期に労働災害や労働環境の急激な変化が激増したことから、労働基準法から派生して労働安全衛生法が1972年に制定されました。
労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成することを促進するための法律です。
関連記事:コンプライアンスとガバナンスとは?意味の違いと企業が行うべき取り組みを解説
雇用の安定に関する法令
続いて、雇用の安定を図るために定められた4つの法律を紹介します。
最低賃金法
よく見聞きすることのある、賃金の最低額を定めた法律で、1959年に労働基準法から派生しました。
最低賃金は、各都道府県で設定されている「地域別最低賃金」と、特定の業種ごとで設定されている「特定最低賃金」があります。
金額は毎年8月に見直しが行われ、10月に改定されます。
必ず毎年チェックし、下回ることのないよう注意が必要です。
参考:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧 令和5年」
参考:厚生労働省「令和6年度地域別最低賃金額改定の目安について」
労働者派遣法
労働者派遣法はもともと、人材派遣を可能にするための法律でしたが、派遣労働者が増加したことで解決すべき課題が明確になり、派遣労働者の権利を守るための法律へと変化していきました。
改正を経て現在の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」となっています。
3年ルールや同一労働同一賃金などのルールが定められています。
パートタイム・有期雇用労働法
2021年に制定された法律で、正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」です。
正社員と、パートタイムや有期雇用労働者との均衡・均等な待遇の確保を推進することが目的としています。
職業安定法
労働者の募集や供給などの労働市場のルールを定めた法律で、1947年に制定されました。
メディアなどに掲載した情報が常に最新情報に更新すること、いつの時点の求人情報かを明らかにすることなど、求人に関するさまざまなルールが求人企業の義務として定められています。
関連記事:IPO準備企業が整備すべき人事・労務とは 懸念点についても解説
高齢者・女性・障碍者雇用に関する法令
社会的な関心の高まりなど、時代の変化に応じてさまざまな法整備が行われる分野で、多様な人材が活躍できる職場環境を実現するためにさまざまな法律が定められています。
主な法律を4つ紹介します。
高齢者等雇用安定法
少子高齢化社会が進み労働人口の減少が懸念されている現代において、働く意思があれば年齢に関係なく活躍できるような環境を整えるための法律です。
以前は65歳までの雇用確保の義務でしたが、令和3年に70歳までの就業確保が努力義務化されました。
70歳までの定年の引き上げや定年制の廃止なども定められています。
男女雇用機会均等法
性別によって差別されることのない雇用環境を整えるための法律として、1985年に制定されました。
時代と共に何度も改正を重ね、性別に関する差別の禁止のほか、婚姻や妊娠を理由とする不利益取扱いの禁止や、ハラスメント対策などについて定められています。
女性活躍推進法
2016年から2025までの10年間という時限のある法律です。
女性の職業生活における課題の解決を目的としており、採用や昇進の機会の積極的な提供と活用、家庭生活との両立を可能にすることなどが基本原則として定められています。
関連記事:コンプライアンスとは?わかりやすく・簡単に意味や使い方を解説
障害者雇用促進法
障害者が職業生活において自立することを促進するための措置を講じ、雇用の安定を図ることを目的とした法律で、1960年に制定されました。
企業には、従業員のうち「法定雇用率」以上の障害者を雇用すること、募集の際には障害者と健常者に均等な機会を提供することなどが求められます。
法定雇用率は2023年時点で2.3%だったところから、現在は2.5%、2026年7月には2.7%まで引き上げられます。
また、障害者の雇用は健常者の雇用に比べて環境や設備の改善、特別な雇用管理などが必要になることから、納付金制度も設けられています。
参考:厚生労働省「障害者の法定雇用率引き上げと支援策の強化について」
関係法令に違反した場合のリスクと雇用主への罰則
労働基準法など労働法に違反した場合、罰則が科されます。
場合によっては雇用主が逮捕されるケースもあるため、注意が必要です。
最も重い罰則は「強制労働の禁止」に違反した時で、1年以上10年以下の懲役または20万円以上3,000万円以下の罰金が科されます。
その他にも、労働条件の明示を怠ったり、休業手当を支給しなかったりした場合には、30万円以下の罰金が科せられます。
関連記事:労務コンプライアンスとは?違反事例とチェックポイントを解説
暴力団排除条例と雇用の際に行うべき反社チェック
労働法とは少し異なりますが、雇用を行う上で知っておくべき法令が暴力団排除条例です。
遵守するためには採用時に反社チェックを行うことが必須です。
詳しく解説します。
関連記事:【2024年最新】反社チェック・コンプライアンスチェックの具体的な方法とは?
暴力団排除条例とは
暴力団排除条例とは、暴力団を含む反社会的勢力を排除するための条例で、全国の都道府県や自治体で施行されています。
暴力団への利益供与の禁止や暴力団事務所の開設・運営の禁止などいくつかの規定があります。
雇用においては、反社会的勢力ではないことや暴力行為を行わないことを相互に示した「暴力団排除条項」を契約書に設置することが努力義務とされています。
また一部の暴排条例では、反社チェックの実施も努力義務とされており、実施しないことで罰則はないものの、善管注意義務違反に問われる可能性があります。
関連記事:反社会的勢力に関する法律はある?各業界の対策と反社との取引を回避する方法も解説
反社チェックとは
反社チェックとは、対象者が「反社会的勢力でないか」「反社会的勢力と関与がないか」を調べることで、雇用時のほか、役員就任時、取引時などにも実施されます。
反社チェックは暴力団情報や報道情報などから情報収集するため、WEBニュースや新聞もチェックすることが一般的です。
検索を行うと、反社会的勢力に関連する情報以外にも、過去の不祥事や犯罪歴、問題行動などを発見することがあり、雇用すべきでない人物を事前に見極めることができます。
労働関係の法令とともに、暴力団排除条例を遵守するためにも、反社チェックを実施することを推奨します。
関連記事:反社会的勢力の実名リストはある?指定暴力団や関係企業の確認方法
まとめ
この記事では、雇用に関連する法律とルールについて解説してきました。
聞き馴染みのある労働基準法をはじめとした労働法のほか、働き方の多様化によって労働に関するさまざまな法律があり、時代に合わせて改正されています。
企業は雇用主として、関係法令を常に意識し、法改正にも対応していきましょう。
関連記事:雇用保険料とは?計算方法や覚えておくべきポイントを解説
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