IPO準備時におけるM&Aのメリット・デメリット 実施時の注意点も解説
IPO準備を進める中で企業の成長のために「M&A」を行いたい場面があります。
一般的に上場申請期においての「M&A」は上場審査上望ましくないとされていますがそれはなぜなのか?
今回はIPO準備企業がM&Aを実施するメリット・デメリットに関して解説し、最後にはもしM&Aを実施するとした場合の注意点についても紹介します。
【参考】より深く知るための『オススメ』コラム
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👉IPO準備にはなぜ反社チェック(コンプライアンスチェック)が必要なのか?上場基準の反社会的勢力排除の体制づくりについて解説
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企業がより成長するために行う「M&A」とは
「M&A」とは、Mergers and Acquisitionsの略称です。日本語では合併と買収を意味しています。
つまり、M&Aとは企業の合併買収のことで、2つ以上の会社が1つになったり、ある会社が他の会社を買ったりすることです。
通常、M&Aを行うと、譲渡企業(売却側)には「後継者や事業承継問題の解決」や「従業員の雇用を安定させる」などのメリットがあります。
譲受企業(買収側)には「売上規模の拡大・シェア向上」や「事業の多角化」、「シナジー効果の創出」などのメリットがあります。
M&Aにはメリットも多いですが、成功率は高く見積もっても50%ほどで、失敗する確率も高い諸刃の剣になる恐れも念頭に置かなければなりません。
関連記事:上場企業・IPO準備企業の陰に潜む反市場勢力とは?基本と用語について解説
IPO準備企業が「M&A」を行うメリットとは
IPOに向けて急速に拡大していく企業にとって、M&Aは起爆剤となりえます。
IPO準備中にM&Aを行うメリットは下記になります。
- 事業規模の拡大に伴う企業価値の増加
- 資金調達額の増大
- 市場からの成長期待の高まり
M&Aによって、売上・利益の大幅な拡大や、新規事業への参入が可能となることで、結果的に上場銘柄として魅力を高めることができます。
また、成長戦略の1つとして、M&Aが実行できることを投資家へアピールすることもできます。
関連記事:スタートアップに求められるIPO準備で早く取り組むべき組織体制の整備とは
IPO準備企業が「M&A」を行うデメリットとは
IPO準備企業がM&Aを行うデメリットは、ガバナンス体制整備や業績予測ができないなど、上場審査で重要となる要素において、立て直しが必要になる点です。
具体的には
- 事業規模拡大に伴う体制整備の工数増加
- 新規事業領域のビジネスリスクの把握や業績予測の困難さ
- ※のれん償却による利益減少及び※のれん減損のリスク
M&Aを行うと人員の増加や拠点の拡充に伴い、求められる管理体制整備の水準が上がります。
その結果、IPO準備のための体制整備に多くの工数を取られることとなります。
また、新規事業領域のビジネスリスクの把握不足より、業法などのコンプライアンスへの理解が不足し、結果的に上場審査の基準を下回る恐れもあります。
そして、のれん償却に伴う利益減は上場審査に響いてきます。
上場後の業績にも影響を与えかねないので注意が必要です。
※のれん:企業同士が合併したり株式取得によって子会社にしたり、このような組織再編が行われた場合に「購入した価格」と「被承継会社の資産ー負債」から生じた差額を上回った部分を「のれん」として計上する。
※のれん償却:「のれん」の持つ付加価値を消費することによって事業展開した結果。
※のれん減損:将来的に見込まれた収益価値を下方修正すること。具体的なリスクは株価低下や配当金減少など。
関連記事:IPO準備企業が上場までのフェーズごとにやるべきこと
IPO準備中は「IPO」と「M&A」どちらを優先するべきか
IPO準備中に「IPO」と「M&A」どちらを優先するべきかは「企業成長」の観点から見る必要があります。
あくまでもIPOはゴールではなく、企業成長のための手段です。
したがって、M&AのほうがIPOより企業成長を促してくれるのであれば、IPOのタイミングを遅らせてでもM&Aを優先すべきです。
一方でM&Aはリスクを伴うので、本来ならIPO準備を始める前に行うことが望ましいです。
IPO準備中に行う場合でも、上場審査スタートよりできるだけ早いタイミングで実施し、審査に備え、体制強化などを行うべきです。
関連記事:IPO準備企業における内部統制への対応方法とは 体制構築のステップも解説
IPO準備中の「M&A」を成功させるために気を付けるポイント
IPO準備中にM&Aを検討するのに気を付けるべきポイントがあります。
上場審査の際にも指摘を受ける可能性が高い項目なので、参考にしてください。
相乗効果が見込める領域であること
相乗効果が見込める合理的な理由がないM&Aは、主幹事証券会社から指摘を受ける可能性が高いです。
その結果、当該事業を手放す必要が生じることもあります。
失敗防止の観点やIPOに備える観点からも
- なぜ当該事業を買収する必要があるのか
- どのような相乗効果が見込めるか
事前によく調査を行い、主幹事証券会社や投資家などの外部に説明できる状態にしましょう。
買収先の企業の経営状況や将来性についてのリサーチ不足
買収先の企業の経営状況や将来性について調べることを「デューデリジェンス」といいます。
M&Aはこのデューデリジェンス不足により失敗するケースがあります。
デューデリジェンスには専門的な知識が必要なので、会計士などの専門家に依頼します。
しかし、コストの面から自社で行う場合も少なくありません。
自力でデューデリジェンスを行った場合、細かい事象の見逃しなどの不具合が起こりやすいです。
また、買収先企業からすると少しでも高値で売りたいので、ネガティブなポイントは隠すことも多く、買い手側の企業はこのネガティブなポイントを見つけなければなりません。
M&A実行後に、未払いの給料などの債務が見つかったり、優秀な従業員の退職が決まっていたり、さまざまなリスクがあるからです。
限られた情報の中で精度の高いデューデリジェンスを行うことがM&Aの成功には不可欠で、主幹事証券会社からもチェックされる恐れがあります。
IPOを見据えるのであれば、外部にも説明可能な程度にデューデリジェンスの過程・結果を記録しておくことが大事です。
関連記事:IPO準備企業が整備すべき人事・労務とは 懸念点についても解説
買収対象企業の業績悪化やコンプライアンス違反
買収企業の業績悪化や買収前にコンプライアンス違反が露見するとM&Aは失敗してしまいます。
業績悪化についてはM&Aに動き出してから成立するまで時間がかかるため、その間に状況が変わる場合が多々あります。
外的な要因も多いため、買収側としては対処のしようがない点です。
コンプライアンス違反についても、社内の体制や内部統制システムについてチェックを行い、怪しい点があれば入念に調査を行うことが必要です。
関連記事:上場には何年かかる?IPO準備企業が押さえておきたい上場への作業とスケジュール
買収に必要な手続きをしっかり行う
M&Aの実行には取締役会や株主総会の決議などが必要な場合があります。
これらの手続きは買い手側・売り手側どちらでもしっかり行う必要があります。
企業の内部手続きを経ていないと、あとでM&Aが取り消されるなどのリーガルリスクや、主幹事証券会社から指摘を受ける可能性もあるので、手続きの証跡を残しておく必要があります。
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IPO準備中の「M&A」を成功させるためにまず必要なことは「反社チェック」
IPO準備中に「M&A」を成功させるためにも、買収先の企業が反社会的勢力との関わりがないことを事前にチェックしなければなりません。
また、反社会的勢力との関わりがなかったとしても、買収先の社長や役員などに犯罪歴があった場合、レピュテーションリスクの観点からM&Aを断念しなければならない場合もあります。
事前にリスクを回避するために反社チェック体制を整え、「M&A」や「IPO」に向けて動いていきましょう。
反社チェックのやり方・業務フローの基礎
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まとめ
IPO準備時におけるM&Aのメリット・デメリットについて解説してきました。
いち早くIPOを目指すのであれば、M&Aはデメリットも多いですが、企業成長を第一に考える上で、IPOのタイミングを遅らせてでも実施するメリットがあるということがご理解いただけたかと思います。
リスクの範囲を事前に認識した上で、M&Aの実施可否を判断しましょう。
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