ベンチャーが上場を目指すメリットとは IPO準備における内部統制強化についても解説
ベンチャー企業にとって、IPO(Initial Public Offering)は大きな目標の一つです。
未上場の企業にとってIPOはさまざまなメリットがあります。
その一方で、IPOには長い準備期間が必要であり、多くの事項に対応していかなければなりません。
「準備に多くの時間と手間をかけてIPOを目指す価値はあるのか」と悩む経営者もいるでしょう。
そこで今回は、ベンチャー企業がIPOを行う具体的なメリットと、IPO準備で重要視される内部統制強化について解説します。
【参考】より深く知るための『オススメ』コラム
👉IPO準備企業における内部統制への対応方法とは 体制構築のステップも解説
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目次[非表示]
- 1.ベンチャーが上場を目指す理由
- 1.1.資金調達が有利に
- 1.2.社会的な信用度・知名度アップ
- 1.3.経営の管理体制強化
- 1.4.創業者の利潤確保
- 2.ベンチャーがIPO準備で行わなければならない内部統制とは
- 2.1.ベンチャーがIPO準備で内部統制を強化する目的と要素
- 2.1.1.業務の有効性及び効率性
- 2.1.2.財務報告の信頼性
- 2.1.3.事業活動に係る法令等の遵守
- 2.1.4.資産の保全
- 2.1.5.4つの目的は総合的に達成することが重要
- 2.2.4つの目的を達成するための6つの基本的な要素
- 2.3.ベンチャーがIPO準備中に作成しなければならない内部統制報告書とは
- 3.ベンチャーがIPO準備中に必ず行わなければならない反社会的勢力の排除体制構築
- 4.まとめ
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ベンチャーが上場を目指す理由
ベンチャー企業が上場を目指す主なメリットは以下の4つです。
- 資金調達が有利に
- 社会的な信用度・知名度アップ
- 経営の管理体制強化
- 創業者の利潤確保
ここでは、このメリットを1つずつ解説していきます。
資金調達が有利に
上場して誰でも自由に自社株を売買できるようになると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
株式を売買できる人が増えれば、資金調達が未上場の頃に比べて格段に有利になります。
企業の資金調達手段には銀行や知り合いから融資を受ける方法もありますが、一度に多額の融資は受けにくいものです。
上場をしてたくさんの投資家に株を買ってもらう機会を作れば、多額の資金を短期間で集めることも可能です。
資金が潤沢になれば、新規事業開拓や新たな設備導入など、自社に大規模な投資もしやすくなります。
社会的な信用度・知名度アップ
会社が上場すれば知名度はもちろんのこと、信用度も上がります
上場するには、経営状態が良好であることが求められ、上場を申請した企業は厳しい審査が行われます。
未上場のベンチャー企業の中には、利益を最優先して管理体制が後回しになっているところもあるでしょう。
そのため、未上場のままでは「売り上げは好調で知名度も高まってきたが、信用度がいまひとつ」といったところにとどまりがちです。
上場をすれば信用度が一気に高まり、特に法人間の営業取引では、上場したら取引を希望する企業が一気に増えることもあります。
特に、起業から短期間で上場すれば、優良な経営者が率いている企業として国内だけでなく海外からも注目を集めることでしょう。
関連記事:上場に成功・失敗する企業の違いとは IPO準備で気を付けるべきポイントを解説
経営の管理体制強化
IPO準備期間中は経営の管理体制の強化が求められます。
その過程で「うっすらと認知はされていたけれど、解決できずに放置されていた社内の問題」が一気に洗い出され、解決することも珍しくありません。
問題が解決すれば、経営レベルが上がるのはもちろんのこと、社内環境が改善して多くの社員にとって働きやすい職場になります。
その結果働きぶりが正当に評価されたり給与が上がったりすれば、社員のモチベーションも上がるでしょう。
創業者の利潤確保
創業者は会社の株を多く保有しているものですが、上場することで創業者の持ち株も売却可能になります。
上場する会社の株は多くの投資家が注目しており、高値が付くことも珍しくありません。
一部を売却するだけでも、まとまった現金が手に入ります。
その結果、仕事へのモチベーションもアップしやすくなります。
関連記事:IPO準備にはなぜ反社チェック(コンプライアンスチェック)が必要なのか?上場基準の反社会的勢力排除の体制づくりについて解説
ベンチャーがIPO準備で行わなければならない内部統制とは
内部統制とは、会社が定めた経営目標や事業目的に対し、達成に必要やルールや仕組みを整備して健全に運営していくことです。
金融庁が令和元年に発表した「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」の中では、以下のように内部統制を定義しています。
内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動)及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。
引用:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について
ここでは達成すべき4つの目的や目的を達成するために行う達成事項などを解説していきます。
ベンチャーがIPO準備で内部統制を強化する目的と要素
内部統制とは、以下の4つの目的を達成するために行います。
- 業務の有効性及び効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令等の遵守
- 資産の保全
ここでは、4つの目的の定義やそれを達成するために整備していくことを解説します。
業務の有効性及び効率性
業務の有効性及び効率性とは、組織の事業目的を達成するために有効な業務を効率的に行っていくことを意味します。
そのためには、無駄な業務を削り、効率性を維持・向上させ続けられる組織を作ることが必要です。
また、経営者は常に業務全体に目を配って不必要な業務は停止する決断を行い、限られた資金や従業員を効率的に動かすことを求められます。
財務報告の信頼性
財務報告の信頼性とは、文字どおり企業の活動状況を把握する上で重要な「財務報告」の信頼性を保ち続けることです。
財務報告の信頼性を保ち続けることは、企業に対する社会的な信用の維持や向上につながる一方で、信頼性を保てなければ信頼を失うだけでなく、投資家などに損害を与えます。
財務報告の信頼性を保つためには、企業の財政状態や経営成績に関する情報を正確に把握し、公表する仕組み作りが重要です。
事業活動に係る法令等の遵守
法令や企業倫理を守ることは、会社のイメージを高めます。
利益を優先して法令を無視したり企業倫理に背いた行為をしたりすることは、一瞬で企業の信頼を失墜させ、回復には長い期間を要します。
法令を守ることは当り前のようなことでいて、難しい場面もあります。
会社が大きくなれば一部で行われた法令違反を経営者が気づかないこともあるかもしれません。
法令違反や企業倫理に背いた行為を素早く報告する仕組み作りも重要です。
資産の保全
資産の保全とは、会社の資産が適切な手続きや承認を経て取得や使用、処分を行うことです。
会社の資産は現金や株券だけでなく、特許や人材も含まれます。
保全とは、資産を守ることだけでなく適切な取得や処分も重要です。
4つの目的は総合的に達成することが重要
この4つの目的は個別に存在しているのではなく、お互いに密接に関係しあっています。
たとえば、事業活動に係わる法令等を遵守することで、資産の保全がスムーズになり、財務報告の信頼性も生まれるでしょう。
また、業務の有効性及び効率性を求めることは企業として非常に重要ですが、だからといって事業活動に係わる法令を破れば、人材をはじめとする資産を保全することが難しくなります。
関連記事:IPO準備企業が上場までのフェーズごとにやるべきこと
4つの目的を達成するための6つの基本的な要素
金融庁は、この4つの目的を達成するために必要な基本的な要素として、以下の6つをあげています。
ここでは、6つの基本的要素を1つずつ解説していきます。
統制環境
企業の倫理観や経営者の姿勢を明確にして、従業員に理解してもらうプロセスです。
リスクの評価と対応
会社経営に関するリスクを正確に評価し、解消するために行う活動です。
リスク対応がしっかりしていれば、会社の信頼性も高まります。
統制活動
経営者の指示をスムーズに伝え、従業員が指示通りに動く組織作りのプロセスです。
不正防止にも役立ちます。
情報と伝達
情報を正しく管理し、従業員や経営者に正しく伝えるように組織を整備することです。
情報が正しくスムーズに伝達できていれば、不正も早期発見できるでしょう。
モニタリング
4つの目標が達成できる組織を作っても、正しく運用できなければ意味がありません。
モニタリングとは「内部監査」のことで、内部統制などが正しく機能しているか客観的にチェックする仕組みを作ることが重要です。
ITへの対応
現在の会社運営にはITの導入が不可欠ですが、ただ導入するだけでは情報漏洩などのリスクも生まれます。
リスク対応やモニタリングの方法なども同時に構築していくことが重要です。
内部統制強化の必要性は理解できたが、どこからはじめていいか分からない場合は、この6つの基本要素を構築することを目指します。
関連記事:IPO準備企業における内部統制への対応方法とは 体制構築のステップも解説
ベンチャーがIPO準備中に作成しなければならない内部統制報告書とは
内部統制報告書とは、金融商品取引法に基づき上場企業に提出が義務づけられている報告書です。
上場企業は、年に1度有価証券報告書に内部統制報告書を添付して、金融庁に提出しなければなりません。
この制度はJ-SOX制度と呼ばれており、2008年度よりアメリカのSOX法にならって導入されました。
内部統制報告書は金融庁が作成したひな形に沿って作成し、公認会計士の監査を受けたうえで提出します。
新規上場の企業は3年に限り「内部統制報告書に対する公認会計士監査」が免除されていますが、報告書は上場して最初の決算日より3カ月以内に提出しなければなりません。
そのため、IPO準備期間中から準備を調え作成することが必要です。
内部統制報告書に記載する内容は、以下のようなものです。
- 整備や運用に関する事項
- 内部統制の評価範囲や手続きを決定した手順や方法
- 評価に関する事項
この3つに加えて、財務報告に関係する内部統制の有効性に重大な後発現象があった場合などは、「付記事項」として報告書に付け加えます。
内部統制に不備があった場合や虚偽記載などがあった場合は、5年以下の懲役、もしくは500万円以下の罰金が科せられます。
内部統制報告書は1年をかけて作成しますが、業務上のリスクを把握したりコントロールしたりするために、以下に紹介する内部統制3点セットを利用するのがおすすめです。
- フローチャート:業務プロセスを図式化し、可視化できるようにしたもの
- 業務記述書:業務の概要や手順を詳しく文章化したもの
- リスクコントロールマトリックス:業務におけるリスクとリスクコントロールを対応表にして表し、リスクコントロースができているか確認を容易にしたもの
関連記事:IPO準備中にも影響する内部統制報告書とは J-SOXへの対応について解説
ベンチャーがIPO準備中に必ず行わなければならない反社会的勢力の排除体制構築
反社会的勢力というと暴力団が真っ先にイメージされますが、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義されています。
そのため、暴力団だけでなく暴力団関係企業や総会屋、半グレ集団なども含まれます。
上場企業にはクリーンさが求められるため、反社会的勢力との繋がりが認められれば上場は認められません。
また、企業が上場申請するときは、「反社会的勢力との関係が無いことを示す確認書」の提出が求められるので、以下に紹介する中に反社会的勢力と繋がりを持つ者がいないか確認が必須です。
- 役員、役員に準ずる者
- 重要な子会社の役員
- 大株主上位50名
- 主な仕入先および販売先
- しかし、反社会的な勢力への締め付けが厳しくなっていくにつれて、反社会的勢力が正体を隠して企業へ近づく例も増えています。
未上場のときに巧妙に正体を隠した反社会的勢力が取引先に紛れていた、などということもあるでしょう。
そのため、ベンチャー企業はIPO準備中に必ず反社会的勢力の排除体制を構築しておくことが大切です。
具体的な方法としては、以下のようなものがあります。
- 反社会的勢力とは一切関係を持たないことを経営者が明確にする
- 契約書に「暴力団排除条項の導入」を盛り込む
これに加えて、「コンプライアンスチェック・反社チェック」を随時行っていくのも有効です。
- Web検索による調査
- 新聞・雑誌記事検索による調査
- 業界団体等が提供するリスト等による調査
- 調査会社による調査
この4つを随時行っていけば、反社会的勢力とうっかり繋がりを持ってしまった、といった失態を防げます。
また、各自治体にある「暴力団追放運動推進センター」などと提携しておくと、反社会的勢力に関する情報がより早く分かります。
関連記事:スタートアップに絶対押さえてほしい「IPO/M&A」を妨げる反社のワナ
まとめ
今回は、ベンチャー企業が上場するメリットやIPO準備期間に行わなければならない内部統制の目的、反社会的勢力の排除体制の構築方法などを解説しました。
ベンチャー企業が上場すると社会的信用度や知名度が一気に上がるなど、メリットが豊富です。
その一方で、上場するには準備することがたくさんあり、準備期間も3年ほどかかります。
上場をする場合はやるべきことをしっかりと把握して、「いつまでに、なにをやるか」を明確にしてから取り組みましょう。
関連記事:上場準備の期間はどのくらい?IPOまでの流れとともに解説
関連記事:IPO準備時に必要な社内規程(社内規定)の整備とは 作成の注意点を具体的に解説