IPO準備中にも影響する内部統制報告書とは J-SOXへの対応について解説
内部統制報告書は、上場後に作成する報告書ですが、IPO準備段階から作成に向けての準備が必要なものです。
企業が内部統制を整備するのは時間のかかる作業で、時間をかけて取り組まなければならない問題と言えます。
今回は、内部統制報告書とはなにか、IPO準備企業が内部統制報告書に対応するにはどのようなスケジュールで進めるべきかなどを解説していきます。
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目次[非表示]
- 1.IPO準備中にも影響する内部統制報告書とは
- 2.IPO準備企業が内部統制の対応を求められる時期とスケジュール
- 2.1.IPO準備企業が内部統制への対応しなければならない時期とは
- 2.2.IPOに向けて内部統制を行うスケジュールとは
- 2.2.1.直前々期(N-2期)
- 2.2.2.直前期(N-1期)
- 2.2.3.申請期(N期)
- 2.3.内部統制報告書の作成手順とは
- 2.3.1.1.内部統制の整備方針を決定し、運用状況を把握する
- 2.3.2.2.評価範囲を決定する
- 2.3.3.3.不備への対応、内部統制の整備状況を評価する
- 2.3.4.4.不備が「開示すべき重要な不備」に該当するかを判断する
- 2.3.5.5.評価結果を記録・保存する
- 2.3.6.6.内部統制報告書を作成する
- 2.3.7.7.決算から3か月以内に金融庁へ内部統制報告書を提出する
- 3.IPO準備企業に求められる反社会的勢力排除の体制構築とは
- 4.まとめ
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IPO準備中にも影響する内部統制報告書とは
内部統制報告書とは、会社の内部統制の状況を評価した結果についての報告書のことで、金融商品取引法により上場企業が提出を義務付けられています。
そのため、IPO準備中には関係のないものと考える方もいらっしゃるでしょう。
参考:金融商品取引法24条の4
しかし、IPO準備中から内部統制報告書の提出に備えた準備をしていなければ、上場に成功したとしても、内部統制の不備を指摘される状況に陥ってしまう可能性が高いです。
ここでは、内部統制報告書の提出を義務付ける内部統制報告制度とは何か、IPO準備企業として、どのように内部統制報告制度に対応すべきかなどを解説します。
上場企業に適用される内部統制報告制度(J-SOX)とは
企業における内部統制の目的は下記の4つを達成することにあります。
- 業務の有効性及び効率性
- 財務報告の信頼性
- コンプライアンス体制の整備
- 資産の保全
内部統制報告制度とは、上記の中でも財務報告の信頼性を確保するため、上場企業に対し、内部統制報告書の提出を義務付ける制度のことを言います。
上場企業は、財務諸表など財務報告の信頼性を確保するために内部の制度を整備し、それが有効に機能しているのかを監査法人による監査を受けたうえで結果について評価した結果を内部統制報告書として提出しなければなりません。
なお、内部統制報告制度は、金融商品取引法に規定されていますが、この法律が、上場企業に対して、内部統制報告書の提出を義務付けたのは、2000年代前半に大企業による粉飾決済事件が相次いだことが原因です。
粉飾決済を防止し、財務報告の信頼性を確保するためには、会社の内部統制機能が有効に機能していなくてはなりません。
そのため、金融商品取引法では、内部統制機能が有効に機能しているのかを評価する、内部統制報告書の提出を義務付けたのです。
IPO準備企業の内部統制報告制度への対応とは
先ほど説明したように、内部統制報告書の提出には監査法人による監査が必要です。
ただし、IPOを経て新たに上場した企業については、上場後3年間に限り監査法人による監査が免除されます。そのため、IPO準備企業としては、上場後に時間をかけて内部統制報告制度への対応を行えば良いと考えるかもしれません。
しかし、新規上場企業が免除されるのは、あくまで監査法人による監査です。
内部統制報告書の提出は免除されておらず、新規上場企業は、上場後における最初の決算日から3か月以内に内部統制報告書を提出しなければなりません。
そのため、IPO準備企業であっても、上場に備えて、内部統制報告書を作成できる状態を整備しておく必要があります。
関連記事:IPO準備企業にはなぜ監査法人が必要?必要な理由と選び方について解説
IPO準備企業が陥りやすい内部統制の不備とは
企業における内部統制は、財務報告の信頼性確保などが目的でした。
そして、その目的を達成するためには、次に挙げるプロセスが有効に機能していなくてはなりません。
- 統制環境
- リスク対応
- 統制活動
- IT対応
- 情報の収集・伝達
- モニタリング
6つのプロセスのうちで最も重要なのは統制環境です。
IPO準備企業では、まずこの統制環境に不備がある例も多いです。
その理由としては、IPO準備企業では、経営者と株主が一致している例も多く、取締役や監査役の選任解任が経営者の一存で決まってしまうことがあります。
経営者の影響力が大きな企業では、本来は経営者や個々の取締役などのコンプライアンス違反を指摘すべき立場にある取締役会や監査役会が有効に機能しないことが多いです。
その結果、企業全体としてのコンプライアンス意識が低くなり、統制環境に大きな問題を抱えることになってしまいます。
IPO準備企業が内部統制の対応を求められる時期とスケジュール
IPO準備企業が、内部統制報告書の提出を義務付けられるのは、上場後最初の決算期から3か月以内です。
内部統制の構築には時間を要するため、上場後に対応を開始したのでは対応は間に合いません。
ここでは、IPO準備企業が内部統制への対応を開始すべき時期や具体的なスケジュール、内部統制報告書の作成手順について解説します。
IPO準備企業が内部統制への対応しなければならない時期とは
IPOの準備段階は、上場申請を行う期を基準として、申請前の直前々期、直前期と申請後の申請期に分けることができます。
IPO準備企業が上場直後の決算において内部統制報告書の提出を義務づけられていることからすると、直前期には、内部統制報告書を作成するまでのプロセスを経験しておくのが望ましいです。
そのため、直前々期には、内部統制への対応を開始し、直前期の決算では内部統制報告書の提出を見据えた内部統制の整備・運用を進めていかなければなりません。
内部統制の整備については、直前期までに完了したうえで上場後は内部統制の運用と評価に専念できるようにしておくべきです。
内部統制の整備・運用状況は、上場審査においても確認される事項です。
そのため、内部統制報告書の提出のためだけでなく、上場審査を通過するうえでも内部統制の整備は重要と言えます。
関連記事:IPO準備企業における内部統制への対応方法とは 体制構築のステップも解説
IPOに向けて内部統制を行うスケジュールとは
IPOに向けて内部統制を行う具体的なスケジュールとしては、次のとおりです。
直前々期(N-2期)
内部統制の整備を開始します。
内部統制整備のためには、事業内容や組織構造を固める必要があります。
固まった事業内容や組織構造を前提に、内部統制の仕組みを整備していくことが重要です。
組織構造が固まっていない状況で内部統制の整備を開始しても、組織構造に変更があると内部統制の仕組みについても最初から見直さなければならなくなる可能性があります。
直前期(N-1期)
内部統制の整備と並行して運用を開始します。
申請期に内部統制報告書を提出できるよう、内部統制報告書作成の手順を意識して、内部統制の整備・運用を行うことが重要です。
不備への対応や内部統制の評価など、実際に内部統制報告書を作成する際の手順を踏んでおくと、申請期での手続きをスムーズに行えるでしょう。
申請期(N期)
直前期までに整備された内部統制の運用を進めて、運用状況の評価が可能な状態にします。
関連記事:IPO準備のスケジュールとは 直前々期以前から申請期までの対応事項を解説
内部統制報告書の作成手順とは
内部統制報告書の作成手順を解説するうえで、まずは記載事項を知っておく必要があります。
内部統制報告書の記載事項は大きく分けると次の3点です。
- 財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
- 評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項
- 評価結果に関する事項
特に、評価結果に関する事項では、次の中から評価結果を選んで記載しなければなりません。
- 財務報告に係る内部統制は有効である
- 評価手続の一部が実施できなかったが、財務報告に係る内部統制は有効である
- 開示すべき重要な不備があり、財務報告に係る内部統制は有効でない
- 重要な評価手続が実施できなかったため、財務報告に係る内部統制の評価結果を表明できない
これら記載事項を踏まえて、実際に内部報告書を作成する際の手順は次のとおりです。
1.内部統制の整備方針を決定し、運用状況を把握する
内部統制の整備状況・運用状況を把握し、その状況を業務記述書やフローチャートなど目に見える形で残しておきます。
2.評価範囲を決定する
財務報告にかかわる内部統制について、評価の範囲を決定します。
3.不備への対応、内部統制の整備状況を評価する
内部統制の整備状況・運用状況から把握された不備への対応や整備状況を評価します。
4.不備が「開示すべき重要な不備」に該当するかを判断する
把握された不備のうち、内部統制報告書に記載すべき不備は、財務報告の信頼性を損なう不備や投資判断に影響を与える不備など「開示すべき重要な不備」のみです。
そのため、把握された不備が「開示すべき重要な不備」に該当するかを判断する必要があります。
5.評価結果を記録・保存する
内部統制報告書への記載の有無を問わず、評価結果を記録・保存しておきます。
6.内部統制報告書を作成する
ここまでの手順を踏まえ、内部統制報告書を作成します。
7.決算から3か月以内に金融庁へ内部統制報告書を提出する
新規上場企業でも、最初の決算から3か月以内に内部統制報告書を提出しなければなりません。
関連記事:IPO準備が大変な理由とは?業績成長と内部統制のバランスについて解説
IPO準備企業に求められる反社会的勢力排除の体制構築とは
上場申請時には、反社会的勢力との関係がないことを示す確認書の提出が求められます。
確認書では、企業の役員はもちろんのこと、上位50名の株主や取引先についても反社会的勢力との関係がないことの記載が必要です。
参考:法務省「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」
そのため、IPO準備企業としては、反社会的勢力との関与を完全に排除しなくてはなりません。
反社会的勢力との関与を排除するための体制構築としては、次の手段が考えられます。
- 代表者が社内外へ向けて反社会的勢力の排除を宣言する
- 雇用契約書や取引基本契約書に反社会的勢力排除条項を設ける
- 取引先についての情報収集を怠らない
- 反社会的勢力排除について担当部署を設置する
- 社内規定を見直し、反社会的勢力排除のための対応を具体的に規定する
- 顧問弁護士を設置する、警察との信頼関係を構築する
反社会的勢力との関与については、役員が反社会的勢力であるなどの直接的な場合のみならず、資金提供など、間接的な影響がある場合も許されません。
そのため、IPO準備企業には、反社会的勢力との関係を絶つための徹底した体制づくりが求められます。
関連記事:【上場企業の事例】つき反社・コンプライアンスチェックとは?
まとめ
上場直後の会社にとって内部統制報告書の作成は負担のかかる作業です。
内部統制報告書の作成をスムーズに進めるには、IPO準備段階から上場後の提出を意識して内部統制の整備を進めていく必要があります。
IPO準備段階では、上場に向けて様々な準備があります。
その中では、上場後の動きも含めて綿密なスケジュールを組むことが重要です。
内部統制報告書の作成についても、上場に向けてのスケジュールに組み込んだうえで、対策を進めていくようにしましょう。
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