個人事業主への反社チェック・コンプライアンスチェックを実施する必要性について解説
近年、社会全体で反社会的勢力の排除に向けた動きが活発化しています。
企業が反社会的勢力との関係を持つことを防ぐために『企業暴排指針』が政府より発表され、全国の各都道府県から『暴力団排除条例』が施行されました。
企業は自社の価値を守るために一切の取引から反社会的勢力を排除する反社チェック・コンプライアンスチェックを行うことが求められます。
その対象には企業と同じく個人事業主も含まれています。
今回は反社会的勢力と関係性のある個人事業主を取引から排除する方法を紹介します。
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目次[非表示]
- 1.反社チェック・コンプライアンスチェックの概要
- 1.1.そもそも反社会的勢力とはなにか?
- 1.2.反社チェック・コンプライアンスチェックとはなにか?
- 1.3.なぜ反社チェック・コンプライアンスチェックは必要なのか?
- 1.4.反社だけでなくレピュテーションリスクまで考慮する必要性とは
- 1.5.企業だけでなく個人事業主に反社チェック・コンプライアンスチェックが必要なワケ
- 2.反社チェック・コンプライアンスチェックの基本的なやり方
- 2.1.新聞記事・WEBなどの公知情報の検索
- 2.2.調査会社・興信所への依頼
- 2.3.警察・暴追センターへの相談
- 3.反社チェック・コンプライアンスチェックを行うタイミング
- 3.1.契約前・採用前(事前チェック)
- 3.2.継続チェック
- 4.反社チェック・コンプライアンスチェック方法の選び方
- 5.まとめ
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反社チェック・コンプライアンスチェックの概要
反社チェック・コンプライアンスチェックの概要について解説します。
そもそも反社会的勢力とはなにか?
反社会的勢力とは暴力や脅迫、詐欺等の手段により経済的利益追求を行う団体や個人です。
具体的には暴力団や暴力団関係企業、半グレ集団、総会屋等の存在があります。
反社会的勢力の中には表向き一般企業を装いながら人目につきにくいところで反社会的な行動を取る組織もあります。
かつては暴力団など分かりやすい形で見破れた反社会的勢力ですが、現在は実態を隠して活動をしていることが多いです。
実務上、入念に取引先をチェックしなければ見分けることが難しい状態であるといえます。
関連記事:反社会的勢力とはなにか?定義や調べ方など具体的な対策を解説
反社チェック・コンプライアンスチェックとはなにか?
反社チェック・コンプライアンスチェックとは企業が他社と取引を行う前に、反社会的勢力と繋がりがない状態であることを確認するための調査です。
なぜ行う必要があるかというと、自社が反社会的勢力との関係を持たないことが求められるためです。
しかし、政府が企業暴排指針を発表したものの、具体的な調査方法は企業に委ねられています。
どのように調査をすればよいかについては企業ごとにどの程度のリスクを考慮する必要があるかによって異なっています。
一般的には公知情報にあたる新聞記事や、インターネット上の情報を調査します。
しかし、それだけでは情報を掴み切れないこともあり、第三者機関に調査を委託することもあります。
また、警察が保有する「暴力団関係者データベース」は一般企業には開示されておらず、警察に照会依頼を行うためには企業が自ら取引先を調査した上で問い合わせを行う必要があり手間と時間がかかる状態です。
関連記事:反社会的勢力の実名リストはある?指定暴力団や関係企業の確認方法
なぜ反社チェック・コンプライアンスチェックは必要なのか?
反社チェック・コンプライアンスチェックが必要な理由として、政府の発表した『企業暴排指針』の存在があります。
この指針は暴力団などの反社会的勢力を取引から排除するための基本的な考え方となっています。
また、『企業暴排指針』を参考にして各都道府県では『暴力団排除条例』を定めており、取引をする際には取引相手が反社会的勢力ではないかを確認し、契約書に反社会的勢力ではないことを約束する暴力団排除条項を盛り込むことを努力義務として求めています。
他にも以下のような理由があります。
- 企業のコンプライアンスを遵守し、社会的責任(CSR)を果たすため
- 違法な要求に対応せざるを得なくなるリスクがあるため
- 反社会勢力に対する資金提供の遮断が必要であるため
反社会的勢力との取引を行うことは企業経営に大きなダメージを与えるだけではなく、社会からの要請にも応えられていないということです。
反社チェックを行うことにより企業が受ける風評被害等のダメージをなくす必要性があります。
関連記事:反社会的勢力排除条項(暴力団排除条項)とは?契約書に定めるべき理由と条項について解説
反社だけでなくレピュテーションリスクまで考慮する必要性とは
企業は反社だけに限らず、レピュテーションリスク※を配慮する必要性があります。
コンプライアンス遵守を果たしていくためには反社会的行動を起こす企業や個人との関係性なども求められるためです。
※レピュテーションリスク:会社に関するネガティブな情報が世間に広まり、会社の信用やブランドが毀損されることによって生じる損失リスクのこと
例えば、運送業を営んでいる企業では飲酒運転の前科のある従業員を雇用してしまうと、もし飲酒運転で交通事故を起こしてしまったときには企業のレピュテーションに悪影響を与える可能性が高いです。
世間からは「その従業員のことをしっかりと調べていれば事故は起こらなかったのではないか」とバッシングを受けることになるでしょう。
事前に反社チェック・コンプライアンスチェックを行うことにより反社会的勢力だけでなく、自社のレピュテーションに影響を与える反社会的行動を起こした企業や個人との取引や採用を避けることができます。
関連記事:コンプライアンス違反とは?事例や法令遵守のための取り組みを解説
企業だけでなく個人事業主に反社チェック・コンプライアンスチェックが必要なワケ
反社チェック・コンプライアンスチェックを企業だけでなく、個人事業主にも行う必要性は以下になります。
- 反社と関係性のある個人事業主との取引で条例違反となってしまう
- 反社と繋がりのある自営業との取引で自社の評判に悪影響が出る
- 取引先の個人事業主にも反社と関係を持たないことを求める必要性がある
それぞれについて解説します。
関連記事:反社会的勢力に該当する人物の家族・親族との取引や雇用は可能なのか?
反社と関係性のある個人事業主との取引で条例違反となってしまう
企業との取引において、個人事業主が反社会的勢力と繋がりがある場合、企業自体がリスクを背負うことになります。
なぜなら、反社会的勢力と繋がりのある個人事業主と取引関係を持つことは企業間取引同様に条例違反となるためです。
反社と繋がりのある自営業との取引で自社の評判に悪影響が出る
取引先の個人事業主が反社会的勢力であると判明すると、企業に対する社会的信用や評判に深刻な悪影響が出ます。
反社会的勢力と繋がりのある企業だと世間から判断されるためです。
取引先の個人事業主にも反社と関係を持たないことを求める必要性がある
法令や企業の所属する業界団体のガイドラインにおいて、反社会的勢力に対する対策が求められている場合、企業側は自社の取引先である個人事業主にも自社と同様の対応をしていることを求めなければなりません。
なぜなら、取引先である個人事業主が自社同様に反社会的勢力排除の考えを持っていなければ、反社との取引を行ってしまう恐れがあり、間接的に自社が反社との関わりがあると判断されてしまう恐れがあるからです。
契約書に暴力団排除条項を盛り込むことで、取引を開始した後でも契約解除ができるようにしておくことが大事です。
関連記事:密接交際者の基準とリスク 反社会的勢力の関係者にならないために知っておくべきこと
反社チェック・コンプライアンスチェックの基本的なやり方
個人事業主を含む取引先の反社チェック・コンプライアンスチェックの基本的なやり方について解説します。
関連記事:反社チェック・コンプライアンスチェックの具体的な方法とは?
新聞記事・WEBなどの公知情報の検索
反社チェックは、企業が取引先を選定する上で必要な情報収集の一環として行われます。
個人事業主も企業と同様にチェックをする必要性があります。
チェックの方法として個人事業主の名前検索を行い、同姓同名の場合は生年月日や地域で絞って確認します。
具体的には以下の方法があります。
- インターネットを活用して情報収集する(Google・Yahoo検索、RISK EYES等)
- 新聞の記事データを検索する(日経テレコン、G-Search、RISK EYES等)
- 公知情報より独自で収集した反社会的勢力情報データベースを検索する(エス・ピー・ネットワーク社、RISK EYES等)
上記の情報源はインターネット上の情報や新聞記事データなど、必ずしも正確で詳細な情報が得られるわけではありません。
異なるデータソースを組み合わせることで情報の補完を行い正確な情報を得ることが重要です。
仮に個人事業主に何らかの犯罪をした疑いがあるとしても本当に逮捕されたのか、実刑判決が下りたのかなどそこまで詳細な情報を得ることは難しいと言わざるを得ません。
そのため、取引先が疑わしい場合は、登記情報や本人確認ができる公的な書類の提供を受け、疑わしきネガティブな公知情報との関与がないかを確認することがあります。
また、反社チェックは、いつ、どんな条件で、どのような結果だったのかという証拠を残すことが重要です。
そのため、チェックした際には、検索した際の画面をスクリーンショットして保管しておくなど、適切な記録を残すことが求められます。
関連記事:企業コンプライアンス強化のために必要な「法人の本人確認」とは
調査会社・興信所への依頼
新聞記事・WEBなどの公知情報の検索を行った結果、取引先が反社会的勢力と関係性があると疑わしい場合には、調査会社・興信所への依頼を検討しましょう。
調査会社や興信所は、プロフェッショナルな調査員を抱え、適切な手法で情報収集を行うことができます。
例えば身辺調査や取引先企業の実態調査、社員の人物調査などが可能です。
また、営業部門からの情報は反社チェックする場合に貴重な情報源となります。
反社チェックを行う部署と営業部門は、日頃から密に連携をとり、反社チェックを行う部署に情報が集まるように工夫する必要性があります。
現場部門の意見を普段から収集しつつ、業務に活かすようにしましょう。
関連記事:反社会的勢力の見極め方&企業へ近づく手口とは
警察・暴追センターへの相談
前述の調査を経て取引先の個人事業主や企業が怪しいなと判断したら証拠資料をもって警察・暴追センターに相談しましょう。
相手が暴力団関係者であることが明白でない場合や、警察からの情報がない場合は、契約を解除することによる訴訟リスクがあるため、自社だけで判断せずに相談することをおすすめします。
相手の氏名、生年月日、住所など、取引先に関する資料を用意して、警察・暴力団追放センターに相談してください。
関連記事:【弁護士解説】反社排除における企業リスク 反社チェックを行うべき7つのポイント
反社チェック・コンプライアンスチェックを行うタイミング
反社チェック・コンプライアンスチェックのタイミングについて解説します。
契約前・採用前(事前チェック)
個人事業主の反社チェックを行うタイミングは、契約前と採用前です。
基本的に金銭のやり取りや、契約書締結前に反社チェック・コンプライアンスチェックをするようにしてください。
契約締結前であれば特段契約義務も発生しておらず、問題のある個人事業主との契約を見送ることが可能です。
また、取引契約だけではなく企業として土地を購入する場合にも注意をしてください。
例えばメーカーが新工場を建設するための土地を購入する場合です。
土地の権利関係は複雑ですが、所有者を確実に確認してください。
地主さんなどが土地を一本にまとめているケース以外では地権者の中に反社が混じっていることがあります。
基本的にはその土地の購入はしてはいけませんし、その土地の周辺を買うことも避けてください。
反社との土地取引を避けて特定の土地だけを不買にしても結局のところ揉める可能性があるためです。
特定の土地を避けて購入しても周辺に工場が出来れば特定の土地の利便性を下げることにつながります。
つまり、反社会的勢力が地権者の中に混じる土地の周辺の土地を買うと、土地の利便性が下がったことを理由に購入を迫られるということです。
時間がかかっても登記簿謄本を確認し、地元の住民の方たちの評判を聞くなどして土地の持ち主の評判は調べぬくようにして下さい。
関連記事:企業を守る反社チェックとは 知っておくべき概要と具体的なやり方
継続チェック
契約締結後も定期的にチェックをするようにしましょう。
例えば取引先との契約更新のたびに反社条項を結ぶことや、取引先にアンケートを行うなどの方法があります。
アンケートは取引先との認識合わせに有効性が高い一方で、取引先に負担をかける行為でもあります。
そのため、手間とコストを考慮して実行することが大切です。
関連記事:反社の見落としゼロへ!既存顧客への定期的な反社チェックが必要な3つの理由
反社チェック・コンプライアンスチェック方法の選び方
反社チェック・コンプライアンスチェックの方法は企業側の裁量に委ねられています。
そのため、適切な方法を選ぶことが重要となります。
反社チェック・コンプライアンスチェック方法の選び方として、以下のパターンがあります。
- 高コストな方法:興信所や調査会社への依頼
- 中コストな方法:データベースを提供する企業と契約して反社チェックを行う
- 低コスト方法:ネットや新聞で公知情報を調べる
高コストな方法は効果が期待できる一方で、お金がかかります。
例えば100億円のビルを建て、売るときにするチェックなどは、もし反社が関わっていた時に損失額等のリスクが高いことから高コストな方法を取る必要があります。
自社の規模や実態に合った方法を取るようにしましょう。
関連記事:反社チェックを無料で行う方法 ツール利用についても解説
まとめ
今回は、個人事業主への反社チェック・コンプライアンスチェックについて解説しました。
特に注目して欲しい点として、法人との取引同様に個人事業主との取引にも注意が必要であるという点です。
仮に取引先の個人事業主が反社会的勢力と関係性があった場合も、企業間取引同様に世間からバッシングを浴びます。
個人事業主は情報が少なくチェックすることは難しいですが、氏名を検索することや、危険性が高いと感じた場合は興信所に依頼して調査してもらうなどの手段を取ることも大切です。
個人事業主の反社チェックも企業に対するチェックと同じく重要なため、しっかりと行うようにしましょう。
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