バックグラウンドチェックは拒否できる?企業側の対策方法も解説
人材の中途採用が増えるなかで、従来は外資系企業が採用時に行っていたバックグラウンドチェックを導入する日本企業も増えてきました。
バックグラウンドチェックは個人情報保護の観点から実施前に本人の承諾を得ることが義務づけられています。
本記事では、バックグラウンドチェックの基本を解説するとともに、候補者がチェックを拒否する理由や企業側の対策についても解説します。
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目次[非表示]
- 1.バックグラウンドチェックとは
- 2.バックグラウンドチェックの主な調査項目・方法
- 2.1.学歴・職歴
- 2.2.反社・犯罪歴
- 2.3.民事訴訟歴・破産歴
- 2.4.インターネット・SNS調査
- 3.バックグラウンドチェックは拒否できるのか
- 3.1.採用候補者はバックグラウンドチェックを拒否できる
- 3.2.企業側は拒否による内定取り消しはできない
- 3.3.バックグラウンドチェックが選考辞退の原因になることがある
- 3.3.1.第1志望ではない・志望度が低い
- 3.3.2.前職・現職の上司や同僚に迷惑をかけたくない
- 3.3.3.経歴を詐称している
- 4.バックグラウンドチェックの実施による候補者の辞退を避ける方法
- 4.1.適切なタイミングでチェックを行う
- 4.2.候補者に負担をかけない方法でチェックする
- 4.3.チェックを実施する理由をしっかり説明する
- 5.バックグラウンドチェックを行わなくとも、最低限、反社チェックを行うのがよい
- 5.1.反社チェックとは
- 5.2.反社チェックの方法
- 5.3.反社チェックツールのメリット
- 6.まとめ
バックグラウンドチェックとは
バックグラウンドチェックとは、企業が行う採用候補者の人物調査です。
これまで新卒採用が主だった日本の企業では、候補者が提出する履歴書や職務経歴書を信用して、それに基づいて選考を進めるのが一般的でした。
しかし、近年は下記のような事情から採用に際してバックグラウンドチェックを行う企業が増加しています。
- 中途採用が増えたことにより、候補者の職務経歴などを詳しく知る必要が生じた
- 外資系企業が増えて、バックグラウンドチェックが日本でも知られるようになった
- 企業コンプライアンスに対する社会の目が厳しくなり、好ましくない人物が入社することのリスクが大きくなった
米国ではバックグラウンドチェックなしで採用した社員が事故や事件を引き起こすと、企業は「怠慢採用」の責任を問われることがあるため、正社員採用では8割以上の企業がバックグラウンドチェックを行っています。
日本でも社員の不祥事が企業の存続にかかわるほどの影響を与える場合があるため中途採用では特にバックグラウンドチェックの重要性が認識されるようになりました。
もちろん、不祥事を未然に防ぐ意味だけではなく、ミスマッチ採用を防ぐ手法としてもバックグラウンドチェックは活用されます。
関連記事:「採用」時のバックグラウンドチェックとは 必要性とメリット・デメリットについて解説
バックグラウンドチェックで調査する内容
バックグラウンドチェックでは、学歴・職歴に詐称がないか、前職でどのような評価を受けていたのか、反社会的勢力との関係がないか、犯罪歴・訴訟歴・破産履歴で問題となる点がないかなどを調査します。
各々について詳しくは次章で紹介します。
バックグラウンドチェックを実施するタイミング
バックグラウンドチェックは、必ず内定前に行わなければなりません。
内定を通知して候補者が承諾すると労働契約が成立したとみなされるので、内定を取り消すには合理的な理由と候補者への説明が必要です。
候補者がその理由と説明に納得しない場合はトラブルになる可能性があります。
しかし、候補者の数が多い採用の早い段階では、バックグラウンドチェックのための手間と費用が大きくなるので、役員面接の前後など選考の最終段階で行うのが適切です。
関連記事:バックグラウンドチェック実施と通知のタイミングは?結果が出る所要期間も解説
バックグラウンドチェックを実施することが多い業界
日本でバックグラウンドチェックを実施している企業が多い業界は、外資系企業の日本法人です。
具体例としては下記のような企業があります。
【金融機関】
- ゴールドマン・サックス
- モルガン・スタンレー
- メリルリンチ日本証券
- アメリカン・エキスプレス
- ダイナースクラブ
【IT企業】
- 日本マイクロソフト
- 日本IBM
- 日本オラクル
- アクセンチュア
- アマゾンジャパン
日本企業では金融機関や大企業の管理職採用でバックグラウンドチェックを行う企業が増えています。
関連記事:バックグラウンドチェックとは?リファレンスチェックとの違いも解説
バックグラウンドチェックの主な調査項目・方法
バックグラウンドチェックでは、次の項目を調査します。
- 学歴
- 職歴
- 反社会的勢力との関係(反社チェック)
- 犯罪歴
- 破産履歴
- 民事訴訟歴
- インターネット・SNSでの投稿歴
各々の項目とその調査方法について解説します。
学歴・職歴
学歴の確認は、卒業証明書の提出を求めることで行います。
卒業証明書を偽造(私文書偽造)するケースもありますが、疑わしい場合は学校に問い合わせることも可能です。
その場合は個人情報の公開についての本人の同意書が必要な場合があります。
職歴の確認は、候補者の前職や現職の同僚・上司などへのヒアリングによって行います。これをリファレンスチェックといいます。
反社・犯罪歴
反社チェックは、候補者が暴力団などの反社会的勢力に所属していないか、あるいは関係を持っていないかを調査することです。
反社チェックを行う方法には、①インターネット上の公知情報を検索する、②新聞記事データベースを検索する、③調査会社に依頼する、などがあります。
犯罪歴(前科)は高度なプライバシーなので一般には公開されていません。
警察庁には犯罪歴のデータがありますが、それを照会できるのは警察や地方自治体など特定の公的機関だけです。
一般人が犯罪歴を調べるには、公知情報を検索することまでしかできません。
民事訴訟歴・破産歴
民事訴訟の記録は各裁判所で閲覧することができます。
ただし、コピーを取ることはできません。
民事訴訟歴に関する公的機関のデータベースは存在しませんが、調査会社などでは独自のデータベースを持っている場合もあります。
破産履歴の調査は、図書館で官報を閲覧できるほか、国立印刷局が提供する「インターネット版官報のページ」で閲覧できます。
直近30日間分は無料で閲覧できますが、それ以前の分は会員制の有料サービスの利用が必要です。
インターネット・SNS調査
インターネット・SNS調査は、採用候補者がSNSなどで不適切な発言をしていないかをチェックする調査です。
採用候補者の氏名でGoogleやYahoo!を検索することで、ネット上での候補者の発言を調査することができます。
関連記事:バックグラウンドチェックはどこまで調査が必要なのか?
バックグラウンドチェックは拒否できるのか
企業が採用候補者の個人情報を用いてバックグラウンドチェックを行うには、採用候補者の事前承諾が必要です。
バックグラウンドチェックを行う企業は、個人情報保護法の「個人情報取扱事業者」に該当し、下記の2点が義務付けられます。
- 事前に本人にバックグラウンドチェックを行うことを告げて了承を得る
- 外部の調査会社を利用するときは、個人情報を第三者に提供することについても了承を得る
採用候補者はバックグラウンドチェックを拒否できる
バックグラウンドチェックに本人の承諾が必要な以上、候補者は当然それを拒否することができます。
拒否することが採用選考に不利になる可能性もありますが、拒否する権利はあるわけです。
ここで重要なのは、企業は候補者に無断でバックグラウンドチェックのために調査会社などの第三者に個人情報を提供できないということです。
企業側は拒否による内定取り消しはできない
既述のように内定によって労働契約が成立しているとみなされるので、取り消しには合理的な理由が必要です。
したがって、内定後にバックグラウンドチェックを行う承諾を求めた場合は、拒否されたからいってそれが内定取り消しの合理的な理由とはなりません。
内定を取り消すには他の合理的な理由を示すか、候補者と示談交渉をする必要があります。
ちなみに、内定取り消しの合理的な理由となるのは以下のような事由です。
- 内定者が学校を卒業できなかったとき
- 内定者が採用の前提となる資格(運転免許など)を取得できなかったとき
- 内定者が病気で就労できないとき
- 経歴詐称が発覚したとき
- 内定者が研修に参加しなかったとき
- 企業が経営難に陥ったとき
関連記事:個人情報保護法に基づくバックグラウンドチェックの必要性と合法性について
バックグラウンドチェックが選考辞退の原因になることがある
企業が候補者にバックグラウンドチェックの同意を求めることが、選考を辞退する原因になることがあります。
候補者がバックグラウンドチェックを避けたいと思う理由には次のようなものがあります。
- 志望度が低い
- リファレンスチェックで前職の上司や同僚に迷惑をかけたくない
- 経歴を詐称している
第1志望ではない・志望度が低い
バックグラウンドチェックへの承諾を求める企業が、候補者にとって第1志望ではないなど比較的志望度が低い場合は、それが選考辞退の原因になることがあります。
候補者のバックグラウンドチェックに対する理解度にもよりますが、どうしても入りたいわけではない企業から「身辺調査をする」と言われると「じゃあ結構です」と言いたくなるのです。
前職・現職の上司や同僚に迷惑をかけたくない
バックグラウンドチェックには、候補者の前職や現職の同僚、上司にインタビューするリファレンスチェックが含まれます。
元の職場での人間関係がうまくいっていなかった場合や、上司や同僚を煩わせたくないと思っている場合は、バックグラウンドチェックを拒否して選考を辞退する可能性があります。
求職活動をしていることを現在の職場に知られたくない場合も同様です。
経歴を詐称している
職務経歴を詐称しているとき、つまり調べられると噓がバレる場合も、当然ながら調査を拒否して選考辞退となる可能性が高いでしょう。
関連記事:コンプライアンスとは?わかりやすく・簡単に意味や使い方を解説
バックグラウンドチェックの実施による候補者の辞退を避ける方法
経歴を詐称しているような候補者が選考を辞退するのは企業にとってはむしろ望ましいことですが、何ら問題のない優秀な候補者がバックグラウンドチェックの実施によって辞退するのは、できれば避けたい事態です。
あいまいな理由での選考辞退を避けるためには下記のポイントをおさえておく必要があります。
- 適切なタイミングでチェックを行う
- 候補者に負担をかけない方法でチェックする
- チェックの内容と実施する理由をしっかり説明する
適切なタイミングでチェックを行う
選考の早い段階、つまりまだライバルが多く最終選考に残れるかどうか不確かなときにバックグラウンドチェックの承諾を求められると、調査の拒否や選考辞退の確率が高くなります。
最終面接の前後など、候補者が内定の可能性が高いと考えるタイミングで行うのがベストです。
候補者に負担をかけない方法でチェックする
バックグラウンドチェックのうちのリファレンスチェックを行うには、候補者にインタビューする前職の上司や同僚を紹介してもらうなど、候補者に手間をかける場面があります。
ネットでのやり取りで済むシステムを作るなど、できるだけ候補者やインタビュー相手の負担を減らす調査設計を工夫することが大切です。
チェックを実施する理由をしっかり説明する
バックグラウンドチェックの承諾を求める際は、調査の内容や目的・理由をていねいに説明することが重要です。
外資系の企業では常識になっていること、企業コンプライアンスへの社会の目が厳しくなっていることなどを説明して、「身辺調査」という暗いイメージを持たれないようにしましょう。
関連記事:社内コンプライアンスを高める方法とは?対策や違反事例も解説
バックグラウンドチェックを行わなくとも、最低限、反社チェックを行うのがよい
外部の調査機関に依頼するリファレンスチェックを含むバックグラウンドチェックを行う必要がないと判断する企業も、反社会的勢力に関係する人物が入社するのを防ぐ反社チェックは必要です。
反社チェックとは
反社チェックとは、取引先や社員(求職者)に反社会的勢力と関わりがある人物がいないかをチェックすることです。
すべての企業には都道府県が定める「暴力団排除条例」によって反社会的勢力との関わりを排除する努力義務が課せられており、これに違反することは重大なコンプライアンス違反となります。
反社チェックの方法
反社会的勢力と関わりのある企業や人物を調べるには、次のような方法があります。
- 会社名や氏名をキーワードにして、インターネットや新聞データベースを検索する
- 調査会社に調査を依頼して、近所での聞き込みなどの身辺調査を行う
- 反社の疑いが強まったときは、それまで調べた資料を用意して警察や暴追センターに相談する
- 独自のデータベースを構築している反社チェックツールを導入する
関連記事:企業を守る反社チェックとは 知っておくべき概要と具体的なやり方
反社チェックツールのメリット
反社チェックツールは、インターネット検索や新聞記事検索にかかる手間を削減することを主な機能とするツールです。
通常のネット検索や新聞記事検索では、反社と関係のない一般情報が大量にヒットして、その選り分けに手間と時間がかかります。
反社チェックツールを利用すると、フィルタリング機能によって反社会的勢力や犯罪に関する情報だけがヒットするため、検索に要する時間を大幅に軽減することが可能です。
また、新聞記事、WEBニュース記事、ブログ投稿、ツール独自の反社データベースなど複数ソースを一度に検索することが可能です。
ツールによっては、既存の取引先に反社情報が報道されたときに通知するモニタリング機能や、顧客管理システムなど異なるソフト間でデータを共有するAPI連携機能などの便利な機能を備えています。
まとめ
個人情報保護法に基づく合法的なバックグラウンドチェックを行うには、採用調査の目的で個人データを利用することについて、事前に本人の了承を得ることが必要です。
採用候補者はバックグラウンドチェックを拒否することができます。
何ら問題のない候補者がチェックを拒否して選考辞退に至らないようにするため、企業は適切なタイミングでチェックする、候補者に負担をかけない調査設計をする、チェックを実施する理由をしっかり伝えるなどの対策が重要です。
関連記事:コンプライアンス違反の罰則とは 起こさないための対策と事例を詳しく解説
関連記事:バックグラウンドチェック後に内定取り消しはできるか?様々なケースごとに解説