IPO準備時に必要な社内規程(社内規定)の整備とは 作成の注意点を具体的に解説
上場審査の過程では、社内規程が適正に整備されているか、また実際に有効に運用されているかという点がチェックされます。
社内規程とは、社内の業務におけるルールを文章化したもので、社内規律を正すことでビジネスの将来性・継続性に貢献するという役割を担っています。
IPO準備企業では、具体的にどのような社内規程を作成すればよいのでしょうか?
今回は、IPO準備で整備するべき社内規程の種類や作成の注意点について具体的に解説していきます。
【参考】より深く知るための『オススメ』コラム
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IPO準備時に整備すべき社内規程(社内規定)の種類とは
まずは、IPO準備で整備する社内規定の種類を確認しておきましょう。
業種や企業規模によっても多少異なりますが、大きく分けると下記になります。
- 基本規程
- 組織関連規程
- 総務関連規程
- 人事関連規程
- 経理関連規程
- 業務関連規程
- 監査・コンプライアンス規程
それぞれ具体的に見ていきましょう。
基本規程
基本規程は、定款をはじめ、経営の基本事項を定めた規程です。
具体的には以下のような規程があります。
- 定款:会社設立時に発起人全員の同意のもと、会社の根本原則について定めた規程
- 取締役会規程:開催日、開催場所、決議方法、臨時取締役会の取り扱いなど取締役会について定めた規程
- 監査役監査規程:監査役の監査方法などに関する規程
- 役員退職慰労金規程:役員の退職時に支給する役員退職慰労金について定めた規程
- 規程等管理規程:諸規程の形式や用語を統一し、業務を合理化することを目的に、諸規程の作成、管理などの基本事項を定めた規程
- 株式取扱規則:資本の取り扱いについて定めた規程
組織関連規程
組織関連規定は、会社の組織体系や職位、職務権限などの組織運営について定めた規程です。主に以下のような規程が含まれます。
- 組織規程:会社を編成している組織の構成と各部門の役割を明らかにした規程
- 職務権限規程:各社員に付与された権限とその限界について定めた規程
- 職務分掌規程:各部門に配分された責任の範囲について定めている規程
- 稟議規程:会議体で決議を諮るほど重要ではない項目に対して決裁・承認を求める方法について定めた規程
- 内部監査規程:内部監査の機関や権限、監査方法などについて定めた規程
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総務関連規程
総務関連規程は、社内で取り扱う印章や文書などについてルールを統一し、業務運営を円滑に管理するための規程です。
以下のような規程が総務関連規程に分類されます。
- 印章管理規程:社内で使用する社印、代表取締役印の登録、交付、保管、使用などについて定めた規程
- 文書管理規程:文書の管理、保存について定めた規程
人事関連規程
人事関連規程では、社員の処遇やルールなどについて具体的に定めています。
具体的には以下のような規程があります。
- 就業規則:社員が就業する上で守るべき事項について定めた規程
- 給与規程:社員の労働に対する賃金について定めた規程
- 退職金規程:退職金について定めた規程
- 定年後再雇用規程:定年を65歳未満としている場合の再雇用について言及した規程
- 旅費規程:出張時の旅費について定めた規程
- 慶弔規程:社員の慶弔時の支給について定めた規程
- 育児介護休業規程:育児や介護のための休業について定めた規程
- テレワーク就業規則:テレワーク勤務における労働管理や情報管理について定めた規程
経理関連規程
経理関連規程は、会社の経理業務に関する基本的なルールを定めた規程です。
その内容は多岐にわたりますが、一例を以下に紹介します。
- 経理規程:経理に関する基本方針、手続きや処理方法などについて定めた規程
- 勘定科目処理要領:勘定科目の定義、取り扱いに関する規程
- 金銭取扱管理規程:特に流動性の高い資産についての管理方法、管理責任者、業務権限などを定めた規程
- 固定資産管理規程:固定資産の取得、減価償却、除却など基本的な事項について定めた規程
- 原価計算規程:原価計算の費目や計算方法に関する規程
- 貸付金規程:社員への福利厚生として貸付金制度を設ける際の運用について定めた規程
- 予算管理規程:予算編成に必要なルールを定めた規程
関連記事:IPO準備企業の経理に求められる役割とは 具体的に行う業務についても解説
業務関連規程
業務関連規程には、仕入や販売、棚卸しなどの各業務について定められています。
業種や子会社の有無によっても規程の種類は変わってきますが、以下のような規程が挙げられます。
- 仕入管理規程:会社の仕入業務に関するルールを定めた規程
- 外注管理規程:業務の外注を行う際の選定方法などを定めた規程
- 販売管理規程:販売業務の方法などについて定めた規程
- 与信管理規程:会社として取引相手を判断するための与信管理について定めた規程
- 棚卸資産管理規程:原材料や貯蔵品などの棚卸資産の管理、棚卸し業務の方法などについて定めた規程
- 工業所有権管理規程:特許権、実用新案権、意匠権、商標権など財産権の管理に関する規程
- 関係会社管理規程:関係会社の範囲、管理責任者の権限などについて定めた規程
監査・コンプライアンス規程
監査・コンプライアンス規程では、組織全体がコンプライアンスに則った行動をとるための基本的な方針を定めています。
ハラスメントやソーシャルメディアに関する規程など、時代背景に合わせてルールが明確化されていく分野があるのも特徴です。
- コンプライアンス規程:コンプライアンスに関する会社の考え方を明確にした規程
- リスクマネジメント規程:組織内外で発生するさまざまなリスクに対してリスクマネジメントの考え方を明確化した規程
- ハラスメント対策規程:会社でのセクシャルハラスメント、パワーハラスメント、出産・育児・介護休業に関するハラスメントなどを防止するために守るべきルールを定めた規程
- 個人情報取扱規程:個人情報の取り扱いについて定めた規程
- 企業秘密管理規程:会社の機密情報の管理、保全について定めた規程
- ソーシャルメディア利用規程:ソーシャルメディアの適切な利用に関する考え方を明確にした規程
- 公益通報者保護規程:内部告発に関して通報者保護の考え方を明確にした規程
- 反社会的勢力対応規程:反社会的勢力排除に向けた対応策を明確にした規程
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IPO準備時の社内規程作成で特に注意すべきポイント
IPO準備で社内規程を作成する際は、最初に必要な規程の洗い出しを行います。
必要な規程を作成したら、規程内容や運用状況を確認し、問題点・改善点などの課題を抽出します。
その後、課題をふまえて規程を改定し、本格運用をスタートするという流れが一般的です。
ここでは、社内規程の作成で特に注意するべきポイントを4つ紹介します。
各社内規程間の整合性
いくつもの社内規程を作成するため、それぞれの規程間に矛盾が生じないよう整合性に注意する必要があります。
たとえば、規程相互間で承認権限者が重複しているなどの矛盾がある場合、実務に際して運用可能なルールだとは言い難いでしょう。
ひとつの業務での視点からだけでなく、全体を俯瞰して規程の整合性をチェックすることが大切です。
関連法令への準拠性
社内規程の作成時は、法令に違反しないよう注意しなければなりません。
基本規程や組織関連規程では民法、会社法、独占禁止法、さらに人事関連規程では労働基準法、経理関連規定規程なら税法や金融商品取引法など、さまざまな法令への準拠性を確認する必要があります。
法令は改正されることもあるため、改正された場合にはその内容をふまえて社内規程を改定するといった対応も必要でしょう。
作成した社内規程について、関連法令の準拠性を確実なものにするためには、顧問弁護士によるリーガルチェックを受けることも有効です。
社内業務の網羅性
各社内規程は、すべての社内業務を網羅している必要があります。
しかし、細かい業務のルールまですべて規程に盛り込むと膨大な量になってしまうだけでなく、改定に取締役会での決議が必要になるため、運用の負担となります。
そこで、規程には基本方針のみを定め、詳細な手続きに関しては別途マニュアルで管理するという方法もあります。
マニュアルならば取締役会で決議を諮る必要もなく、実態に合わせて柔軟に変更できるので、効率的に運用できるでしょう。
社内業務の実態に即した整備
すべての社内規程は、自社での業務の実態に即した内容となっていることが重要です。
社内規程の作成に関する知識が十分でなかったり、作業効率を重視したりする場合、類似企業の社内規程を活用するというケースも多くあります。
しかし、いくら類似企業であっても自社の実態と完全に合致しているわけではないため、そのまま活用すると社内業務に支障が出てしまいます。
社内規程の作成には多くの時間と労力がかかりますが、社内業務の実態を丁寧に調査し、運用可能性の高い規程を作ることが望ましいでしょう。
調査の際は、特定の部署のみを対象にしてしまうと実務との乖離が生じるため、全社的に広く意見を取り入れることが大切です。
関連記事:コンプライアンス違反の罰則とは 起こさないための対策
上場審査における社内規程のチェックポイントとは
上場審査においては、社内規程が適切に作成、運用されているかが評価されます。
ここでは作成、運用の段階に分けて具体的なチェックポイントを紹介するので、ぜひ参考にしてください。
社内規程の作成におけるチェックポイント
- 各規程が自社の業務実態に即しているか
- 法令等に違反していないか
- 各規程間における整合性はとれているか
- 各規程の管理責任および担当部門が明確になっているか
- 規程で定めれらた各担当者の責任と権限の範囲は適切か
- 改廃権限が代表取締役、社長に集中していないか
- 規程内で、目的、内容、運用、手続きが明確にされているか
- 不正や誤りの生じやすい部分には、内部牽制が機能するようになっているか
- 子会社がある場合、親会社の定款における事業目的には、子会社の事業内容が含まれているか
- 定款や株式取扱規程は上場会社に求められる基準をふまえた内容になっているか
社内規程の運用におけるチェックポイント
- 社員に周知徹底され、必要な規程がいつでも閲覧できるようになっているか
- 実行不可能な部分がある場合、改定が予定されているか
- 帳票、証憑等によって運用実績がきちんと確認できるか
- IPO準備で作成する規程については、原則として直前期1年間は運用する計画がなされているか
- 規程の制定、改定、廃止の時期および理由が記録されているか
- 規程の改廃手続きは、取締役会や委員会等の機関で決議されているか
- 定期的に見直しがなされているか
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IPO準備における社内規程の整備と同等に必要な「反社会的勢力排除」の体制構築とは
IPO準備において、社内規程と同様に整備する必要があるのが「反社会的勢力排除」の体制です。
反社排除体制の構築は、東京証券取引所の新規上場ガイドラインにも上場審査の内容としても示されており、IPO準備企業にとっての必須項目だということがわかります。
コンプライアンス規程や反社会的勢力対応規程を整える過程でも方針を明確にしていきますが、リスク回避のためにも早めに着手しておくべきでしょう。
反社排除体制の整備はIPOを目指さない企業にとってももちろん重要で、各企業では取引先や株主、社員に反社会的勢力との関わりがないかをチェックする「反社チェック・コンプライアンスチェック」を行う必要があります。
きちんとしたチェックを行わずに反社会的勢力との関わりが明らかになった場合、倒産に至るケースもあるのです。
リスクを避けるための保険ともいえる反社チェック・コンプライアンスチェックは、できるだけ早く仕組みを構築し運用していくことが望ましいでしょう。
関連記事:反社チェック・コンプライアンスチェックの具体的な方法とは?
まとめ
IPO準備企業に求められる社内規程の整備について、規程の種類や作成における注意点などを解説しました。
社内規程は、適正な作成・運用を行うことでIPOを実現できるだけでなく、IPO後も企業活動に効率性や永続性をもたらす基盤となるものです。
多くの時間や労力がかかる大変な業務ではありますが、しっかりと準備をして基盤を整えていきましょう。
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