反社会的勢力と知らずに契約を結んでしまった場合に無効にできる?
反社会的勢力は年々数を減らしています。
警視庁の発表では1990年から2021年で3分の1以下の2万5900人となっているようです。
ここまで減ったのには2007年に政府から発表された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」や、2011年にすべての都道府県で施行された「暴力団排除条例」が反社会的勢力の抑え込みにとても効果的だったと言えるでしょう。
しかし、暴力団排除条例の抑え込みにより、目立った活動を行えない反社会的勢力は、活動拠点や資金源確保のために、その活動を日々巧妙化させているのが現状です。
反社会的勢力は日常に溶け込み、一般人との見分けがつかなくなってきています。
その上、反社会的勢力は一般人や一般企業との関わりを積極的に持とうとしてくるため、知らないうちに接点を持ってしまうことも。
今回は反社会的勢力と知らずに契約を結んでしまった場合のリスクと、そうならないための対策、改めて確認しておきたいチェックポイントを解説していきます。
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反社会的勢力との契約は無条件に破棄できるのか?
暴力団排除条例(以降、暴排条例)では「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認められる場合」に相手が暴力団関係者か確認する努力義務規定の記載があります。
つまり、反社勢力との取引をしないためには契約前の確認は必須といえるでしょう。
それでも企業の法務体制が整っていなかったり、爆発的に契約数が増えている急成長中企業では直接利益に結び付く作業ではない反社チェックは後回しにされがち。
そんな状況では締結後に相手が反社会的勢力だったことが判明…。なんてことも。
もちろん万全な事前チェックができているのが理想ですが、もし契約後に相手方が反社会的勢力だと判明した場合はどうすればよいのか。
また、相手が反社であると分かった時点で一方的に契約を切ることができるのでしょうか。
契約後にもし相手方が反社会的勢力だと判明した場合
警視庁によると、相手が反社会的勢力の「規制対象者」だということを知らなかった場合、仮に契約してさらには商品やサービスの提供を行ってしまっても違反にならないようです。
また、契約前に相手が反社会的勢力であると知っていて契約を結んでしまった場合でも、違反した事実を公安委員会に申告した場合には勧告されなくなります。
相手が反社であると分かった時点で一方的に契約を無効にできるか?
ここでの争点は「取引した相手が反社会的勢力だと予め知っていれば契約しなかった。契約はなかったことにしてほしい」との主張が通るかどうかになります。
実は民法95条では契約の「錯誤」について定めていて、上記のような錯誤が認められれば契約は無効になります。
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
ただ、契約締結の動機内容に錯誤がある場合については、無制限に契約を無効とすると取引が不安定になってしまいます。
そのため、裁判所では「動機が表示された上で契約内容になった」と認められる必要があるとしています。
2016年の最高裁判決では「契約が締結され、融資が実行された後に主債務者が反社であることが判明した場合に契約の意思表示に要素の錯誤がない」とされました。
つまり、契約書に明示しない限り「取引した相手が反社会的勢力だと予め知っていれば契約しなかった。契約はなかったことにしてほしい」という主張は通らないことになります。
反社会的勢力との契約を無効にするためにやるべきこと
最高裁の判例が出ている以上、何も事前対応をしなかった場合、契約相手が反社会的勢力と判明しても、契約後に無効にはできません。
それではどんな事前対応を行えば良いのでしょうか?
契約時に取引相手が反社会的勢力でないことを書面で誓約させる
暴力団排除条例にも努力義務規定で相手が暴力団関係者でないかを事前確認するように定めています。
また、警視庁では契約締結する際に、契約相手に自己が「暴力団員、暴力団関係者でないこと」を表明させ、書面で誓約させる方法を取るように指導しています。
具体的には、反社会的勢力でないことを表明させる書面には、相手方から現在または将来にわたって下記3点を表明させる必要があります。
- 自分は反社会的勢力でないこと
- 反社会的勢力と関係がないこと
- 暴力的な要求や行為を行わないこと
記載例については暴力団追放運動推進センターの「表明・確約書」の文例を確認してみてください。
反社会的勢力であると事後的に判明した場合の対応・取り扱いに関する規定を契約書に明示する
契約締結後に契約相手が反社会的勢力であることが分かった場合にその契約が解除できるように、契約書に特約条項を設けることが非常に大事です。
最高裁の判例からも、契約書には「事後的に判明した場合の対応・取り扱いに関する規定」を明示することが必須であるとの見解を述べていると考えてよいでしょう。
結局のところ、事前の対応がその後のリスク回避に大きくつながるということです。
取引前の反社チェックや契約書の内容が如何に大事か、改めて会社として理解し早々に実行すべきということが分かりますね。
関連記事:反社チェックはどこまで行うべきか 実施対象・方法を解説
反社かどうか改めて対応を確認しておきたいチェックポイント
ここまでは、事前に契約書へ暴力団排除条項(以後、暴排条項)を追加することで、事後に相手方が反社会的勢力とわかったときに契約を無効にできるようにするべきだと解説してきました。
現在では、上記条項を組み込んだ契約書を交わす企業が大多数を占めていますので「弊社はもう取り組んでいます」という方も多かったと思います。
ここからは改めて契約時の対応を確認する必要がある4つの項目を紹介します。
- 全国に暴力団排除条例が施行された2011年以前に取引開始した企業と暴排条項を締結しているか
- 新しくできた事業に、暴排条項を盛り込めているか
- 採用時に雇用形態関わらず暴排条項を結んでいるか
- なにかあったときに、すぐに暴排条項を締結した証拠を提出できるよう保管できているか
2011年以前に取引開始した企業と暴排条項を締結しているか
暴排条項を契約書に記載することを盛り込んだ暴力団排除条例は2011年に全国で施行されました。
それ以前からお付き合いがある企業とはもしかしたら暴排条項を締結していない恐れがあります。
確認を行い、もし締結していない企業を見つけたらすぐに締結を依頼すべきです。
ただ「今までの付き合いがあるのに突然依頼することは失礼にあたるんじゃないか」と考えてしまうこともあると思います。
そんな時は「暴力団排除条例に則った契約の締結」になることを相手に伝えることでスムーズに解決に向かうはずです。
新しくできた事業に、暴排条項を盛り込めているか
新しくできた事業では、事業を運営していくことに注力するので、細かいところが抜けてしまう恐れがあります。
今一度、暴排条項を盛り込めているか確認してみてください。
採用時に雇用形態関わらず、暴排条項を結んでいるか
自社で働く人たちには正社員でもアルバイトでも暴排条項を結ぶ必要があります。
短期間だけ働いてもらう場合でも、反社会的勢力へ資金が流出しないようにするため、全ての人間と契約を結ぶようにしましょう。
なにかあったときに、すぐに暴排条項を締結した証拠を提出できるよう保管できているか
暴排条項を記載した契約書を締結していたとしても、実際に使用する際、すぐに取り出せるように保管していなければ意味がありません。
顧客の数だけ契約書があるので、管理方法をしっかり行うことが大事です。
関連記事:契約書に反社会的勢力排除条項(反社条項)が必要な理由は?具体例と例文も紹介
まとめ
ここまで反社会的勢力と知らずに契約してしまった時のために行うべき対処法と、改めて確認すべきチェックポイントについて解説してきました。
事前の対応をせず、契約締結後に相手方が反社だと分かった場合、契約の無効を主張することは非常に難しいです。
また、反社会的勢力とつながりを持ってしまったら、当然ながら悪いイメージが世間に広まり、風評被害から取引がうまくいかず、会社の経営が先行かなくなってしまう…なんてことも。事前の対応をしっかり行って、リスクを回避していきましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この記事を読んで少しでも不安に感じたのであれば、今の体制を一度見直してみてはいかがでしょうか。
こんな時代だからこそ、普段から反社チェックを行い、反社との接点を少しでも多くつぶしていきましょう。
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