日本版DBSとは?イギリスとの違いや採用における反社チェックについても解説
日本は先進諸国の中では、未成年者に対する性加害への対応が遅れていることが、従来から指摘されていました。
法整備などの対応が進まない中で、公立の小・中・高校や特別支援学校の教員がセクハラやわいせつ行為で処分を受ける事件が、2021年まで9年連続で200件を超えています。
参考:教員採用試験対策サイト「わいせつ教員処分215人 精神疾患、最多5897人―文科省」
しかし、政府も遅ればせとはいえ法制化に動き出し、2023年秋には国会に法案が提出される見通しです。
創設が検討されている制度は、イギリスの性加害防止システムであるDBSをモデルにしていることから、日本版DBSと呼ばれています。
この記事では、日本版DBSが想定している内容やイギリスDBSとの違いを、分かりやすく解説しています。
一般企業においても再犯可能性が高い犯罪歴をもつ求職者を雇用しないための、反社チェックについても解説しているので、参考にしてください。
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目次[非表示]
- 1.日本版DBSとは?
- 1.1.イギリスDBSと日本版DBSとの違い
- 1.2.日本版DBSが使われる範囲は?
- 1.2.1.照会の対象となる犯罪歴の範囲
- 1.2.2.データベースに犯罪歴が記録される期間
- 1.3.日本版DBSの課題とは?
- 1.4.日本版DBSはいつから導入される?
- 2.採用における反社チェック・コンプライアンスチェック
- 2.1.採用に反社チェックが必要な理由
- 2.2.採用前のチェックでリスクを回避した事例
- 2.3.採用における反社チェックの具体的な方法
- 2.3.1.基本的なチェックは公知情報で
- 2.3.2.高精度のチェックは、調査会社・興信所へ依頼
- 2.3.3.反社の疑いが強まったら警察・暴追センターへ相談
- 2.4.採用における反社チェックを行う時期
- 3.反社チェックを無料で行う方法
- 4.まとめ
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日本版DBSとは?
日本版DBSとは、性犯罪の犯罪歴がある者が、子どもに関わる職業に就くことを制限する制度です。
2023年10月現在、制度設立に向けた法整備が進められています。
イギリスのDBSをモデルにしているので、現在のところ日本版DBSと呼ばれています。
DBSとはDisclosure and Barring Service(ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス)の略で「前歴開示および前歴者就業制限についての政府機構」という意味です。
従来から必要性が指摘されていた制度ですが、2020年にベビーシッター仲介サイトに登録した男が強制わいせつ容疑で逮捕された事件をきっかけに、法整備に向けて政府が動き出しました。
イギリスのDBSは個人の犯罪履歴などのデータベースを管理し、該当する職業に就く際に必要な「無犯罪証明書」を発行します。
雇用者は採用に際してこの証明書を確認することが義務づけられています。
DBSと同じ趣旨の制度はイギリスだけでなく、ドイツ・フランス・ニュージランド・スウェーデン・フィンランドなどにもあります。
関連記事:反社会的勢力の実名リストはある?指定暴力団や関係企業の確認方法
イギリスDBSと日本版DBSとの違い
イギリスのDBSは子どもだけでなく、高齢者や病気または障害のある成人に関わる職業も対象になりますが、日本版DBSでは、子どもだけを対象とし、子ども家庭庁が管轄する予定です。
また、イギリスのDBSは職業として行う者だけでなく、ボランティアとして活動するものも規制の対象になります。
日本版DBSはボランティアを規制に含めることは想定されていません。
さらに、確定した犯罪だけでなく、子どもや弱者に対する不適切な行動もデータベースに記録されます。雇用主は解雇した従業員の不適切行動を通報する義務があります。
日本版DBSは求職者の性犯罪歴照会を学校、保育所、幼稚園、児童養護施設には義務化し、データベースの利用を希望する民間業者には認可制度を導入する予定です。
照会結果は「無犯罪証明書」として発行することが想定されています。
日本版DBSが使われる範囲は?
こども家庭庁で行われた有識者会議の報告書が2023年9月5日に公表されました。
それに基づいて、想定されている日本版DBSの適用範囲を紹介します。
照会の対象となる犯罪歴の範囲
報告書によると、照会できる犯罪歴の範囲は、不同意わいせつ罪などの性犯罪の刑法犯を想定しています。
被害者が大人のケースも含まれる予定です。
照会できるのは刑が確定した者で、起訴猶予・不起訴処分などは含まれない見通しです。
都道府県の条例違反で刑罰が確定した者については、国が全てを把握する仕組みがないので、含めるのは困難と考えられています。
ただし、盗撮、痴漢行為など国法違反にもあたる犯罪は記録の対象となります。
有識者会議で、対象範囲について議論になったのは、行政の懲戒処分や民間企業の解雇処分を受けた者です。
また、処分を受ける前に自主退職した者についても何らかの対応が必要だという意見もありました。
データベースに犯罪歴が記録される期間
自己破産などの経歴が登録されるいわゆるブラックリストに登録期間が定められているように、DBSの前歴登録期間も上限が設けられる見通しです。
具体的な年数は、今後の検討課題となっています。
求職者の犯罪歴を照会すべき事業者の範囲
【照会することが義務となる事業者】
- 学校
- 認定こども園
- 保育所
- 児童養護施設
- 障害児入所施設
【登録することで照会が可能となる事業者】
- 学習塾
- 予備校
- スイミングクラブ、少年野球チームなどのスポーツクラブ
- タレント養成所、ダンス教室などの技芸養成所
登録した事業者は求職者の犯罪歴を照会することが義務となりますが、登録することで保護者の信頼を得るメリットがあります。
登録した事業者は、直接雇用した者だけでなく、派遣労働者や業務委託者の照会も義務づけられます。
日本版DBSの課題とは?
日本版DBSの創設にあたって課題とされているのは、この制度が憲法に保障された職業選択の自由や個人情報保護法に抵触しないか、という問題です。
一方では、不起訴処分を照会の対象から除外することに疑問を呈する意見もあります。
また、学習塾やスイミングスクールなどの民間事業者を任意の認可制にすることに対する疑問の声もありました。
日本版DBSはいつから導入される?
日本版DBSは、2023年10月中旬に開催が見込まれている臨時国会への法案提出に向けて、準備が進められていましたが、来年に先延ばしとなったようです。
導入時期は未定ですが、2023年には大手芸能事務所の所属タレントに対する性加害が大きな社会問題となり、未成年者に対する性犯罪の防止に向けた世論が高まっていることもあって、早ければ2024年度内に成立・施行される可能性があります。
関連記事:「採用」時のバックグラウンドチェックとは 必要性とメリット・デメリットについて解説
採用における反社チェック・コンプライアンスチェック
日本版DBSの対象外となる一般企業においても、従業員がわいせつ罪や盗撮などで逮捕される事態は、企業の評判や信用を落とす原因になります。
採用の際に、再犯の可能性が高い犯罪歴がある人を採用しない用心は必要です。
反社チェックやバックグラウンドチェックは、採用候補者に上記のような企業のコンプライアンスを揺るがす人物がいないかをチェックする作業です。
チェックの対象となるのは次のような項目です。
- 暴力団、半グレなどの反社会的勢力に関係していないか
- 再犯の可能性が高い犯罪歴がないか
- 以前の職場でパワハラ、セクハラなどの不適切な行為がなかったか
- 学歴・職務経歴・資格などに詐称がないか
- インターネット、SNSなどでの不適切発言がないか
- 破産歴や民事訴訟を起こされたことがないか
重大なコンプライアンス違反である反社会的勢力の排除や犯罪歴のチェックを主目的とするのが「反社チェック」で、より広く候補者の行為や性向、履歴書の事実関係をチェックするのが「バックグラウンドチェック」です。
採用に反社チェックが必要な理由
コンプライアンス遵守の観点から、企業が反社との関係を遮断しなければならないのは当然です。
反社との関連が明らかになることで企業がこうむるダメージには次のようなものがあります。
- 消費者の信用を失い、ブランドイメージが低下し業績が悪化する
- 証券取引所から上場廃止処分を受ける可能性がある
- 金融機関からの融資が停止される可能性がある
- 反社による脅迫、不法行為を受ける可能性がある
関連記事:反社チェックは義務なのか?反社会的勢力に関わる法令やチェックの方法を解説
採用前のチェックでリスクを回避した事例
採用前の反社チェック、バックグラウンドチェックで、リスクのある候補者を判別して採用を見送った事例をご紹介します。
●記事検索により痴漢行為で逮捕歴があることが発覚
採用候補者のAは、元同僚への聞き込み調査では前職での行動に問題ありませんでしたが、記事検索により痴漢行為で逮捕された前歴があることが判明し、採用が見送られました。
●学習塾を経営していた時のわいせつ行為が発覚
採用候補者のBは有名大学を卒業後、学習塾を経営して企業化した経歴の持ち主でした。
経歴や志望動機に問題はなかったのですが、塾を個人経営していた時期に、教え子の小学生にわいせつ行為をして逮捕された経歴が内定前に発覚し、採用が見送られました。
●ネット情報の調査から偽名が発覚
採用候補者のCをネット調査にかけたところ「Cは偽名で本名はD。Dは詐欺師だ」という情報がヒットしました。
本名のDで大学の在席・卒業が確認され偽名であることが判明したので、詐欺師であるかどうかは別として採用は見送られました。
採用における反社チェックの具体的な方法
反社チェックの具体的な方法には下記のようなものがあります。
- インターネットや新聞記事などの公知情報の検索
- 調査会社・興信所への依頼
- 警察・暴力追放運動推進センターへの相談
必要に応じて上記を組み合わせると、チェックの精度がより高くなります。
基本的なチェックは公知情報で
公知情報の検索には、下記の方法があります。
- インターネット情報(Google・Yahoo検索、RISK EYESなど)
- 新聞記事データ(日経テレコン、G-Search、RISK EYESなど)
- 独自に構築された反社情報データベース(エス・ピー・ネットワーク社、RISK EYESなど
)
高精度のチェックは、調査会社・興信所へ依頼
公知情報の検索から疑わしい情報がヒットした場合は、専門調査機関に依頼してさらに詳しい調査をするのが望ましい場合があります。
反社の疑いが強まったら警察・暴追センターへ相談
公知情報の検索や調査会社への依頼を経て、危険度が高いと判断された場合は、警察・暴力追放運動推進センターへ相談して最終確認をしましょう。
採用における反社チェックを行う時期
採用の際の反社チェックは、必ず内定前に行う必要があります。
内定も雇用契約の一種と見なされるので、内定を一方的に解消するとトラブルに発展する可能性があります。
反社とのトラブルはとくに避けたい事態です。
内定前なら、とくに理由を告げずに採用を見送ることができます。
関連記事:企業を守る反社チェックとは 知っておくべき概要と具体的なやり方
反社チェックを無料で行う方法
反社チェックの方法の中で、公知情報の検索は無料で行えますが、調査会社への依頼や反社データベースの利用は有料です。
公知情報の検索は無料の反面、それなりの手間がかかります。
最も手軽に行えるのがgoogle検索によるチェックです。
候補者の氏名を入力して、疑わしい情報がヒットしないか確認します。
氏名に容疑、逮捕、処分などの言葉を組み合わせて検索することでヒットする場合もあります。
反社チェックの作業は煩雑になることが多いため、近年は専用データベースを用いたツールが開発されています。
運用には料金がかかりますが、無料トライアルが設けられているサービスもあります。
詳しくは下記の記事を参照してください。
反社チェックを無料で行う方法 ツール利用についても解説
▼反社チェックツール「RISK EYES」の無料トライアルはこちら
まとめ
日本版DBSは、これから国会に法案が提出される段階で、内容はまだ確定していません。
おおよそ固まっているのは下記のような骨子です。
- 求職者の性犯罪歴をデータベース化して、子どもに関する事業を営む者が照会できるシステムを創設する
- 学校、認定こども園、保育所、児童養護施設などの事業者には照会を義務付ける
- 学習塾、スイミングクラブなどの民間事業者は申請によってデータの照会が可能になる
- データベースに記録されるのは有罪が確定した性犯罪で、不起訴処分は含まれない
日本版DBSの対象となる未成年者に関係する企業はもちろん、一般企業においても未成年者に対する性加害が重大なコンプライアンス違反になることを認識し、対応を図る必要があります。
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