戦略人事とは?メリットや必要な機能、成功させるためのポイントを解説
2000年代以降、日本でも戦略人事が広がり、一般的に使われる言葉となりましたが、その具体的な実践方法は明確に定められていません。
そのため、自社では実施できていないと感じている人も多く、その半数以上が、「やりたくても何をすればいいのか分からない」という状況が見受けられます。
この記事では、戦略人事とはなにか、そのメリットや必要な機能についても解説していきます。
【参考】より深く知るための『オススメ』コラム
▼反社チェックツール「RISK EYES」の無料トライアルはこちら
目次[非表示]
- 1.戦略人事とは
- 2.戦略人事を導入するメリット
- 3.戦略人事を成功させるために必要な4つの機能
- 3.1.HRビジネスパートナー(HRBP)
- 3.2.センター・オブ・エクセレンス(CoE)
- 3.3.組織開発・人材開発(OD・TD)
- 3.4.オペレーション部門
- 4.戦略人事の立て方
- 4.1.経営ビジョンを理解する
- 4.2.人材ビジョンを策定する
- 4.3.中長期経営計画を理解する
- 4.4.中長期人事計画を策定する
- 4.5.採用計画と人材育成計画の策定
- 4.6.組織人事戦略
- 5.戦略人事を行うためのポイント
- 5.1.現場からの信頼を得る
- 5.2.人事の取り組みとの整合性を図る
- 5.3.戦略人事について説明を行う
- 6.まとめ
戦略人事とは
戦略人事とは、経営戦略を実現するために、経営資源の1つである「ヒト」=「人的資源」を最大限に活用する取り組みのことです。
時代が変化していくなかで、人事部門は、これまでの定型的な管理や運営を中心とした業務だけでなく、経営戦略と連動し、業績向上のために積極的に経営に参画するような戦略部門になることが求められています。
戦略人事の概念
戦略人事の基本概念として、「戦略的人的資源管理(Strategic Human Resources Management)」という概念があり、英語の頭文字をとって「SHRM」とも呼ばれています。
1997年に、米ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が「MBAの人事戦略」の中で、以下の4つの役割を提唱しました。
- 戦略パートナー
- 変革エージェント
- 管理のエキスパート
- 従業員チャンピオン
人事はこの4つの役割を担ったビジネスパートナーであるべきだと提唱し、これをきっかけに、人事はもっと戦略的であるべきだという論調が日本企業にも広がりました。
戦略人事の導入状況
日本企業の実態として、戦略人事の導入は円滑には進んでいません。
9割近くの企業が戦略人事の重要性を認識しているというアンケート結果がありますが、実際に導入し、機能させられている企業は3割程度だと言われています。
戦略人事の重要性は感じていても、うまく実践されていないのが現実です。
関連記事:人事制度とは?3本柱とその役割、制度構築のフローを解説
戦略人事を導入するメリット
戦略人事を導入する大きなメリットの1つは、経営戦略と人事戦略を一体化することで、人的資源を活用するさまざまな経営施策をスムーズに実行できることです。
これまでの人事の仕組みでは、経営戦略と認識のずれがあったり、連携に時間がかかり実行までのタイムラグが生じたり、環境の変化に応じた経営戦略を実行するスピード感が落ちてしまうリスクがあります。
戦略人事を導入すれば、こういったリスクを減らすことが可能になります。
また、個人の能力向上や組織文化の醸成などの人事改革を、適正かつ効率的にできるというのもメリットの1つです。
関連記事:IPO準備企業が整備すべき人事・労務とは 懸念点についても解説
戦略人事を成功させるために必要な4つの機能
戦略人事を成功させるために必要な4つの機能を解説します。
HRビジネスパートナー(HRBP)
HRビジネスパートナーとは、HR=「人事」とBP=ビジネスパートナーとの協働を実現する機能です。
BPは経営トップや現場のリーダーを指します。
人事戦略を成功させるためには、経営層の考え方を深く理解し、現場の状況やニーズを把握したうえで施策することが重要です。
それぞれのビジネスパートナーとコミュニケーションを取りながら、経営戦略に関わる役割を担います。
センター・オブ・エクセレンス(CoE)
CoEは「Center of Excellence」の略で、人的マネジメントに関する専門知識や高度なスキル、情報などを備えた人事のプロとして、戦略人事に必要な知見を経営層や現場に提供、サポートする機能です。
例えば、現場でこういう点を評価してほしいというニーズがあれば、人事評価制度を構築する際に盛り込むなどの役割があります。
その他にも採用や配置など、人事の幅広い業務への対応が必要であるため、その分野の豊富な経験がある人材が求められます。
関連記事:トライアル雇用とは?雇用の流れやメリット・デメリットを解説
組織開発・人材開発(OD・TD)
ODは「Organization Development」の略で、「組織開発」という意味であり、組織の人事戦略を実行するために体制を構築する機能です。
TDは「Talent Development」の略で、「人事開発」という意味であり、戦略を実現するための人材マネジメント戦略の機能です。
組織開発と人材開発は相互の関係性が深く、両方の機能のバランスをよく組み合わせていきましょう。
オペレーション部門
オペレーション部門とは、CoEで策定された労務管理や勤怠管理、採用プロセスなどの業務を、日々運用する機能です。
CoEで作成された運用マニュアルや仕様書をオペレーション部門に納品し、運用する流れになります。
戦略人事において必要不可欠な基本機能で、それぞれの業務を正確かつ効率的に処理することが重要です。
関連記事:採用とは?種類や業務フロー、成功させるポイントを解説
戦略人事の立て方
戦略人事は、基本的に以下の6つのステップで実施されます。
- 経営ビジョンを理解する
- 人事ビジョンを策定する
- 中長期経営計画を理解する
- 中長期人事計画を策定する
- 採用計画と人材育成計画の策定
- 組織人事戦略
これらのステップにおいて、人事管理上の成果を定めることが大切です。
人事管理上の成果は、経営戦略と人材管理を結ぶだけでなく、人材管理と経営の成果を結ぶ要素にもなります。
しかし、何を人事管理の成果とすべきかを悩まれている方も少なくないでしょう。
必要な役割や仕事、能力などを定義して、それに当てはまる従業員を採用、育成、配置などを行い充足します。
数だけで見るのではなく、本来求めていた活動が実際に行われているかという部分が成果指標となります。
また、従業員の気持ちを高めること、各部門における人事面での問題解決なども成果指標としてみることができます。
戦略人事の策定について、ステップごとに詳しく解説します。
経営ビジョンを理解する
まず第1ステップとして、経営ビジョンを理解することが非常に重要です。
経営ビジョンを再確認し、経営戦略の内容や課題、改善点などを把握したうえで、一貫性を持った戦略を策定できるようにしましょう。
人材ビジョンを策定する
経営戦略の内容に従って、それが達成されたときの従業員の状況を考え、人材に関するビジョンを策定します。
目標のためにどんなスキルが必要なのかということや、望ましい人物像、必要な人員数などについても検討します。
過去データや、自社の目指す企業像に近い企業を参考にするなどして、長期的な予想も含めて考えるとよいでしょう。
関連記事:採用時に反社チェックが欠かせない理由とは?企業側のリスクと注意点も解説
中長期経営計画を理解する
中長期の経営計画と企業目標を把握、理解し、人事に関連する取り組みを明確にしていきましょう。
それに加えて、長期的な経営ビジョンを理解して、将来に向けて準備が必要な事項を洗い出します。
将来像から逆算することで、必要な人事戦略をより明確にすることにつながります。
中長期人事計画を策定する
経営計画と人材ビジョンを基に、中長期の人事計画を策定しましょう。
どのような人材を、いつまでに、何名確保するべきなのかを分析して、中長期の視点で計画を策定します。
将来的に必要とされる人材を早期に明確にすることで、経営戦略を実現させることができます。
採用計画と人材育成計画の策定
中長期の人事計画をより具体的にして、採用活動や人材育成に関する計画を策定します。
採用活動については、経営計画を実現するのに必要な人材要件や人数、スケジュール感などを検討します。
人材育成については、経営戦略を実践するために必要なスキルや実施内容、期間などを計画します。
それぞれ実施方法や期間などを具体的にしておくことが必要です。
組織人事戦略
組織人事戦略とは、経営方針に沿った組織開発のことです。
人的資源が、経営方針に従って必要な結果を出せるかどうかは組織開発に影響されるため、大切なステップの1つです。
関連記事:労務コンプライアンスとは?違反事例とチェックポイントを解説
戦略人事を行うためのポイント
現状の日本では、戦略人事に対する関心は高まっている反面、うまく機能していない企業がほとんどです。
その理由として多く声が上がるのが、経営層の問題です。
「良くも悪くもワンマン経営になっている」などの経営者の気質に関わる部分や、「戦略人事というものが認識されていない」といった認識不足を指摘するものです。
また、人事部門においては、日常業務に追われて戦略人事を立案、遂行できる人材がいないといった問題がある企業も少なくないでしょう。
このように、戦略人事を導入できない要因は1つではありません。
そのため、まずは経営層と人事部門が戦略人事について、しっかりと話し合う機会を持つ必要があります。
戦略人事を展開し、成功させるために必要なポイントを3つ解説します。
現場からの信頼を得る
戦略人事は経営戦略の実現に向けた取り組みであるため、無意識に経営側の立場に傾いてしまいがちです。
実際に対象となる従業員の気持ちやモチベーションに配慮しなければ、スムーズに戦略的な取り組みを進めることは難しくなります。
人事は経営層と従業員の架け橋となり、現場の従業員と協働しながら、現場の信頼を得ることが非常に重要です。
現場の従業員の状況を把握し、モチベーションが上がるような施策を打ち出すなど、現場に寄り添い、信頼を獲得する姿勢が必要でしょう。
関連記事:コンプライアンス違反を起こす人と組織 事例と対策を紹介
人事の取り組みとの整合性を図る
組織全体としてもそうですが、各人事管理についても整合性を高めることが大切です。
整合性が高いほど、人事管理が目標とした成果は達成しやすいです。
反対に変化をもたらしたい場合は、人事管理の整合性の高さが変化を阻害する方向に働きます。
つまり、今の人事管理が全体としてどう関連しているのか、整合性に意識を向けることが重要となります。
全体の状況を常にチェックしながら、整合性を図ることを意識し、食い違いやずれが生じそうなときは修正できるようにしておくことが必要です。
戦略人事について説明を行う
戦略人事を成功させるためには、従業員がその戦略について理解しておく必要があります。
また、従業員の満足度やモチベーションを向上させることが、生産性や企業成長につながります。
そのため、人事担当者が従業員に対して企業の戦略を説明し、そのために従業員がどうすべきか、どうあるべきかを明示しましょう。
関連記事:従業員の反社チェックが必要な理由とは?チェックのタイミングと実施すべきサインも解説
まとめ
戦略人事とは、経営戦略に基づいて、人的資源を最大限に活用するための取り組みのことです。
必要な4つの機能を相互的に活かし、連動させていくことで、戦略人事を成功に導くことができます。
日本企業ではまだ浸透率が低いのが現状です。
必要なステップを理解し、戦略人事を通して経営戦略を実践し、企業の成長につなげていきましょう。
関連記事:反社会的勢力に該当する人物の家族・親族との取引や雇用は可能なのか?
関連記事:雇用保険料とは?計算方法や覚えておくべきポイントを解説