契約法務とは?その役割と具体的な業務内容、重要なポイントをわかりやすく解説
企業法務の仕事は、契約法務、商事法務、コンプライアンス法務、紛争対応法務、戦略法務の5つに分けられます。
その中でも、今回は「契約法務」について詳しく解説します。
契約法務とは、契約にまつわる法的リスクを管理し、企業を守る業務のことです。
適切に遂行するためには、法的知識や経験が欠かせません。
この記事では、契約法務の役割と具体的な業務内容、重要なポイントをわかりやすく解説します。
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目次[非表示]
- 1.契約法務とは
- 2.契約法務の役割
- 3.契約法務の具体的な業務内容
- 3.1.契約書審査
- 3.2.契約書作成
- 3.2.1.①取引内容のヒアリング
- 3.2.2.②契約書のひな形の選択・修正
- 3.2.3.③契約書案の作成
- 3.2.4.④関係部署との調整
- 3.2.5.⑤取引先との交渉
- 3.2.6.⑥契約の締結
- 4.契約法務で扱う契約と契約書の種類
- 4.1.契約法務で扱う契約
- 4.2.契約法務で扱う契約書
- 5.契約法務の業務における重要なポイント
- 6.まとめ
契約法務とは
契約法務とは、契約書の作成や審査など、ビジネスを展開する際に必要な契約関係の業務を担い、取引先企業など外部と関わることが多いのが特徴です。
契約書には、取引内容や紛争解決の手段など、取引において必要なことが記載されています。
トラブルや問題の発生を未然に防ぎ、自社に不利益な契約とならないように見極め、法務担当による相手方との交渉や駆け引きが重要となります。
契約法務の位置づけ
契約法務は、企業法務のさまざまな業務の中でも、最も一般的な業務だと言われています。
契約法務の実務経験を積むと、リスク管理や法律などさまざまな知識・経験を積むことができます。
また、もしトラブルや紛争が発生した場合、裁判や損害賠償請求などの費用が必要となり、時間だけでなく金銭的にも企業の負担になってしまいます。
このような問題が発生しないよう、契約法務はさまざまなリスクを想定し、リスクヘッジを行うことが重要です。
つまり、契約法務は法務部において最も一般的でかつ、最も重要な仕事と言えます。
商事法務との違い
商事法務とは、株主総会や取締役会の運営に関する業務のことで、企業内部の運営が適法に行われるようサポートします。
契約法務が企業と外部との契約を指す言葉であるのに対し、商事法務は「企業内部の運営に関する法務」を中心とした言葉です。
商事法務を行う際は、他部署の人間や役員と関わる機会が多いため、会社法などの法律知識に加えて、コミュニケーション能力も必要となります。
関連記事:企業法務の役割と重要性とは?主な仕事や関連する法律について解説
契約法務の役割
契約法務の役割は、①契約書の審査、②契約書の作成という2つがあります。
詳しい業務内容については後ほど詳しく解説しますが、契約書の審査や作成を行い、企業の損失や法的紛争を未然に防ぐことが契約法務の役割です。
企業法務には、大きく分けて以下の3つの役割があります。
- 臨床法務
- 予防法務
- 戦略法務
この3つの中で、契約法務は「予防法務」に分類されます。
それぞれについて詳しく解説します。
臨床法務
臨床法務とは、訴訟などトラブルが発生した際に対応する法務のことです。
例えば、クレーム対応や不祥事への対応、訴訟への対応などがあります。
臨床法務の最大の目的は、トラブルによる影響を最小限にすることです。
トラブルが収束するまで、企業への信用低下や金銭的な損失を最小限に抑えるために尽力します。
場合によっては、外部の弁護士に依頼することもあります。
関連記事:レピュテーションリスクを管理する方法は?リスクが顕在化する原因や企業に与える影響も解説
予防法務
予防法務は、トラブルが発生しないように予防・対策をする法務のことで、契約法務が該当します。
予防法務は契約書関係の業務のほか、社内ルールの整備や、法務をスムーズに実行するための社内体制づくりも担います。
つまり、企業活動の全体には発生しうる法的リスクを予測し、トラブルが起こりづらい体制を構築する役割があります。
戦略法務
戦略法務とは、経営戦略を踏まえて行う法務のことです。
リスク回避だけでなく、収益の向上や企業の拡大のため、ときにはあえてリスクを取る選択をする「攻めの法務」を担っているとも言えます。
新規事業や会社買収、再編などの案件に対応する業務があり、経営陣が適切な判断をできるように、法的なリスクを分析し、戦略上の提案を行います。
戦略法務を適切に行うためには、法的知識だけでなく、経営、マーケティング、財務、ITなどビジネス全般への深い理解が必要となります。
関連記事:経営戦略とは?目的と段階を解説 知っておくべきキーワードも紹介
契約法務の具体的な業務内容
契約法務の具体的な業務は、大きく分けて以下の2つです。
- 契約書審査
- 契約書作成
それぞれについて詳しく解説します。
契約書審査
取引先から提示された契約書の内容を確認し、自社に不利益な条項やリスクとなる条項がないかを審査します。
契約書審査において重要なポイントは、①リスクの洗い出し、②相手方との交渉の2点です。
万が一トラブルが発生した際の責任範囲が明確で、自社が過大な責任を負わされていないか、相手方に有利な条件で契約解除ができる内容になっていないかなど、リスクに関する部分は入念に確認しましょう。
また、相手方との交渉については、企業規模などの力関係も関わってきます。
無理な交渉をせず、自社が多少不利な条件でも譲歩する判断も、審査業務において重要となります。
関連記事:IPO準備&急成長ベンチャーに必要な「契約管理」 法務体制強化でリスク管理
契約書作成
契約書の作成業務は、新規取引や契約内容の変更があった際、リスクを抑え、自社にとって有利な契約書を作成することを目指します。
一般的な契約書作成の流れを解説します。
①取引内容のヒアリング
関係部署に契約内容をヒアリングし、契約条件などを把握します。
②契約書のひな形の選択・修正
過去の契約書を参考にして、取引内容に合ったひな形を選択します。
必要な場合は条項の追加や削除、修正を行います。
③契約書案の作成
契約書案を作成しますが、以下の3点に注意しましょう。
- 曖昧な表現や解釈の余地がある表現は避ける
- 関連する法令に違反する条項がないか確認する
- 法令に違反するかだけでなく、自社の利益が確保できているかどうかという視点を持つ
④関係部署との調整
関係部署と一緒に契約書案の内容を確認、調整します。
修正が必要な場合は反映し、最終的な契約書案を作成しましょう。
⑤取引先との交渉
契約書案を基に、取引先と交渉を進め、合意を目指します。
⑥契約の締結
交渉が成立したら、署名捺印を行い、契約を締結します。
最近では、「電子契約」の導入が進んでおり、契約書作成から契約締結までの流れをよりスムーズに行えるようになっています。
関連記事:契約書に反社会的勢力排除条項(反社条項)が必要な理由は?具体例と例文も紹介
契約法務で扱う契約と契約書の種類
契約法務では、さまざまな契約とともに契約書を扱います。
代表的なものを以下に紹介します。
契約法務で扱う契約
現代では、さまざまな形の契約関係が存在します。
代表的なものは以下の通りです。
- 売買契約
- 不動産などの賃貸借契約
- 金銭消費貸借契約
- 雇用契約
- 請負契約
- 委任契約
このほかにも、以下の契約も民法上規定があります。
- 贈与契約
- 組合契約
- 和解契約
取引関係の多様化やIT技術の進歩に伴い、さまざまな契約関係が存在しますが、民法上、典型契約としては定められていないものもあります。
例えば、「業務委託契約」という言葉はよく耳にしますが、実は典型契約ではなく、契約の解釈は個々の契約の内容によって変化します。
また、最近ではインターネット上での取引が増加したため、インターネット上での契約についてもさまざまな規制が設けられています。
関連記事:海外取引先への契約書に暴力団排除条項を英語で盛り込むには 海外反社チェックも解説
契約法務で扱う契約書
ビジネスシーンにおいてよく利用される契約書は、以下の9つです。
- 売買契約書
- 賃貸借契約書
- 業務委託契約書
- 雇用契約書
- 労働派遣契約書
- 秘密保持契約書
- 代理店契約書
- リース契約書
- 保証契約書
上記以外にもさまざまな種類の契約書があり、業種によって扱う契約書も異なります。
例えば、小売店であればフランチャイズ契約書、不動産業界であれば媒介契約書、メーカーであればリベート契約書やOEM契約書などが用いられます。
関連記事:雇用契約書は必要か?交付方法や内容、作成時のポイントについても解説
契約法務の業務における重要なポイント
契約法務の業務を行ううえで、以下の4つが重要なポイントとなります。
- 取引内容の明確化
- 自社の利益追求
- リスクの最小化
- 企業の法令遵守
これらのポイントをしっかりと理解し、適切に実践することで、企業の法的リスクを最小限に抑え、安定した事業活動を行うことにつながります。
それぞれのポイントを詳しく解説します。
取引内容の明確化
契約書を審査・作成する際に最も重要なポイントとなるのが、契約内容やその目的を明確にすることです。
誰が契約を行うのか、契約の目的は何かをはじめとして、取引内容や契約期間、支払い条件など、契約において必要な項目が漏れなく、かつ正確に定められている必要があります。
意味の捉え方や誤解によってトラブルの原因になってしまう可能性があるため、曖昧な表現や、解釈の余地のある表現になっている項目はないようにしましょう。
関連記事:与信取引で発生するリスクとは?与信管理の方法とポイントも解説
自社の利益追求
契約法務の担当者は、契約書の内容において、できる限り自社の利益を追求する必要があります。
契約法務は紛争を未然に防ぐ「予防法務」の役割がある反面、自社に有利な内容で契約締結することで、企業の営利活動にも貢献することができます。
契約は当事者同士の合意に基づいて成立しますが、一度合意してしまうとなかったことにするのは容易ではありません。
契約書の内容をしっかり精査せずにサインしてしまうと、自社が大きな不利益を被る可能性があります。
自社の利益を最大限に確保できるよう契約内容を精査し、必要に応じて修正を提案しましょう。
特に責任範囲や損害賠償に関する項目は慎重に検討する必要があります。
また、契約書を作成する場合は、まずは自社に有利になるような契約書を作成し、相手方の反応を見てみるのを基本スタンスとするとよいでしょう。
関連記事:IPO準備&急成長ベンチャー必見!取引先が増えきる前にやるべき「反社チェック」
リスクの最小化
取引には、相手方の契約不履行や、債務不履行、自然災害や倒産などさまざまなリスクが伴います。
そこで契約法務は、これらのリスクを事前に予測し、そのリスクに対応するため、適切な条項を契約書に設ける必要があります。
そのため、法的知識はもちろん、経験も必要です。
また、契約締結後も、契約が履行されているかどうか状況を確認し、迅速に対応することが重要です。
関連記事:安心して取引先するために、企業調査・リスク管理を見直そう 今から始める反社チェック
企業の法令遵守
当然のことですが、企業法務を行う際の法令遵守も非常に重要なポイントです。
契約自体は、基本的には当事者同士の合意があれば成立します。
しかし、すべての事項が自由に取り決めできるわけではなく、法令で規制されていることもあるため、契約内容に関する法令には注意する必要があります。
例えば、民法のほかにも、下請け法や独占禁止法、消費者契約法など契約に関する法令はたくさん存在します。
また、2024年11月にはフリーランス新法が新たに制定されるなど、関係法令は改正・制定される機会が少なくありません。
企業の業種や契約内容に合わせて、正しくかつ最新の法的知識を身に着けることが大切です。
関連記事:2024年11月施行!フリーランス新法の具体的な内容とは?違反した場合の罰則や企業がとるべき対応を解説
まとめ
この記事では契約法務の役割や業務内容、重要なポイントについて解説しました。
企業活動において、契約はつきものです。
関係法令や何に注意して業務を行うかなど、正しい知識を身に着けることで、取引におけるリスクを最小限に抑え、安定した企業活動を行うことにつながります。
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